2023年NHK交響楽団演奏会ベスト3

第1位:12月Cプログラム ファビオ・ルイージ 指揮

曲目: フンパーディンク 歌劇「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲
  ベルリオーズ 幻想交響曲 作品14

 

第2位:2月Aプログラム 尾高 忠明 指揮

曲目: 尾高 尚忠 チェロ協奏曲 作品20
チェロ独奏:宮田 大
  パヌフニク   カティンの墓名碑(1967)
  ルトスワフスキ   管弦楽のための協奏曲(1954)

 

第3位:5月Cプログラム ファビオ・ルイージ 指揮

  
曲目: サン・サーンス ピアノ協奏曲第5番 ヘ長調 作品103「エジプト風」
      ピアノ独奏:パスカル・ロジェ
フランク 交響曲 ニ短調

次点:4月Aプログラム パーヴォ・ヤルヴィ 指揮

ベスト指揮者:ファビオ・ルイージ
ベスト・ソリスト:宮田 大(チェロ)

選択の理由

 2023年は新型コロナ感染症が感染症法上の第5類に分類が変更され、NHK交響楽団の定期演奏会もコロナ前に完全に戻りました。そういう中で、NHK交響楽団的にひとつの節目になったのは何といっても定期演奏会が遂に2000回に到達したことでしょう。1927年に第1回の定期演奏会が行われてから、戦争やパンデミックの災禍を越えて96年目にして到達した訳ですから、素晴らしい積み重ねだと思います。そういったメモリアル・イヤーであるものかかわらず、残念なことも多かったです。何といっても桂冠名誉指揮者であり、現在世界の指揮界の最長老であるヘルベルト・ブロムシュテットとロシアの長老指揮者ウラディーミル・フェドセーエフの二人が来日できず、定期演奏会が休演になったり、代演指揮者が舞台に立ったことはやむを得ないこととはいえ、やはり残念ではありました。

 そのような状況の中、私自身はA,C両プログラムの会員として、本年はブロムシュテットの休演1回を除く17回の演奏会を聴くことになりました。

 さて、個々の感想のまとめです。

 1月はソヒエフが客演。ブラームスピアノ協奏曲2番とベートーベン4番の定番の2曲によるAプロとロシアものによるCプロ。ブラームスはピアニストのハオチェン・チャンが線が細すぎてイマイチ。ベートーヴェンは良かったのですが。Cプロはソヒエフらしさが出た中庸の良い演奏でした。

 2月Aは尾高忠明による尾高尚忠のチェロ協奏曲(独奏:宮田大)とルトスワルスキのオケコン。尾高の父親の曲をしっかり演奏しようとする意識と宮田大のヴィルトゥオジティが結びついた名演。オケコンはN響管楽陣の名人芸が素晴らしい。Cプロはヤクブ・フルシャによる舞曲2曲。ラフマニノフの交響舞曲とバーンスタインの時代の違いを見せる見せ方がとても上手で感心しました。

 4月はパーヴォ・ヤルヴィ。AプロはR・シュトラウスの大規模管弦楽曲を2曲。大規模管弦楽曲をくっきりと見せることに長けたパーヴォだけのことはあって、アルプス交響曲における情景描写の見事さが素晴らしい。Cプロは近代フランス音楽の小品3曲による洒落たプログラム。かなり通好みのプログラム編成でしたが演奏はとても面白い。

 5月は下野竜也の下野らしい凝ったAプログラムと、ルイージによるサン・サーンスのピアノ協奏曲とフランクの交響曲による組み合わせのCプロ。Aプロでは推進力のあるドヴォルザーク7番がよく、洒脱なサン・サーンスと情熱的なフランクという対比を見せたCプロも見事。円熟のロジェのピアノが光りました。

 6月はノセダ。Aプロはプロコフィエフとカゼッラ。スタイリッシュな演奏が良かったです。Cプロはショスタコの8番。この曲は戦争交響曲として知られていますが、内省的な音楽的特徴を踏まえてか、晦渋で重苦しい演奏。ウクライナ侵略に対するノセダの思いを感じました。

 9月は、首席指揮者ルイージによるオール・リヒャルト・シュトラウスプログラムとワーグナーの「指環」オーケストラル・アドヴェンチャー。Aプロはブラック・ユーモア的屈折した笑いの含まれた曲ですが、そこまで毒がない。Cプロは上手ですけど、「リング」は歌有ってなんぼ、という感じがあるので、あまり好きにはなれません。

 10月は予定されていたブロムシュテットがドクター・ストップで来日できず。ブルックナーがアナウンスされていたAプロは休演、シベリウスの2番をメインとしたCプロは高関健の指揮に変更になりました。結果としてそれなりの演奏だったと思います。

 11月はAプロを指揮する予定だったフェドセーエフがこちらもドクターストップで来日できず。N響指揮研究員の平石章人と湯川紘恵が代理で指揮。演奏はいつものN響を見せてくれてよかったのですが、指揮者の個性を出すに至らなかったというのが本当のところ。CプロはN響初共演のマダラシュが登場。ハンガリー音楽縛りで聴かせました。清潔感のある「ハーリ・ヤーノシュ」がよかったです。

 12月は首席指揮者ルイージが9月に続いて登場。Cプログラムの「幻想」はN響の「幻想」演奏史に残るようないい演奏だと思いました。そして、2000回の定期となったAプログラムは、マーラーの8番「一千人の交響曲」が取り上げられました。300人が載ったステージは圧巻でしたけど、演奏はそこまでのものかというのが正直な感想。

 以上からベスト3の選出をするわけですが、正直申し上げて、昨年のベスト3と比較するとかなり落ちるというのが実態だと思います。N響の演奏能力は高いので、どんな指揮者が来ようとどんな曲を演奏しようともある程度は卒なくこなすのですが、頭抜けた演奏はなかったのかな、というのが私の印象です。昨年10月のブロムシュテットのマーラー9番、11月の井上道義による伊福部昭とショスタコーヴィチの組み合わせ、9月のルイージのヴェル・レクは本当に素晴らしかったのだな、今年全体を見て再度思ってしまうところです。

 とは言っても今年のベスト3を選ばなければいけません。昔やったトーナメント方式で絞っていきましょう。

 1月のソヒエフは中庸の良さを取ってCプログラムを選びます。2月は尾高。フルシャも良かったですけど、父親の曲をしっかり紹介した尾高をとります。4月のヤルヴィは大規模な管弦楽曲をさばく力量と、小品を洒脱に演奏するセンスの双方を見せてくれたと思います。大規模曲を演奏するヤルヴィは定評がありますが、ここは今まであまり見ることのなかった小品へのセンスを認めてCプロを取りましょう。5月はルイージ。6月のノセダはCプロの評価が一般には高いのですが、私はAプログラムの演奏の方が好きです。9月はAプロ。10月は選定外。11月はCプロを取ります。12月はCプロが断然上。

 以上一回戦が終了して、1月C、2月A、4月はC、5月はC、6月A、9月A、11月、12月Cが残り、これでベスト8は決まりです。

 ここからベスト4に絞りますが、1、2月からは尾高忠明の指揮した2月Aプロを取ります。4月、5月からはルイージの指揮したは5月Cプロですが、ヤルヴィも捨てがたい。特にヤルヴィの二つの演奏会に関して私はCプロを選んでみましたが、4月、5月に聴いた4公演を見比べると、4月Aプログラムを選ぶのはありだと思います。6月、9月は6月Aプロでいいでしょう。11月、12月では文句なく12月Cプロ。

 以上、2月A、5月C、6月A、12月Cが残り、ここからベスト3の選定ですが、この内容であれば、6月Aが落ちて1位がルイージが指揮した12月Cプロ、2位が尾高忠明が指揮した2月Aプロ、3位がルイージが指揮した5月Cプロとなると思いますが、やはり4月Aが捨てがたい。

 1位と2位はまあいいでしょう。3位は4月Aと5月Cとの比較。ここはどちらでもいいのでしょうが、最後は個人の好みを入れて、5月Cにします。次点がベスト3に大曲が入っていないことを踏まえて4月Aプログラムを推しましょう。

 ベスト指揮者は文句なしでルイージ、ベストソリストは宮田大とパスカル・ロジェの一騎打ち。ベテランのロジェに敬意を表しながらも、宮田のヴィルトゥオジティに軍配を上げましょう。

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2023年12月22日記

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