NHK交響楽団演奏会を聴いての拙い感想-2022年(前半)

目次

2022年1月21日 第1949回定期演奏会 指揮:ジョン・アクセルロッド
2022年2月5日 第1951回定期演奏会 指揮:下野 竜也
2022年2月11日 第1952回定期演奏会 指揮:鈴木 雅明
2022年4月9日 第1954回定期演奏会 指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
2022年4月15日 第1955回定期演奏会 指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
2022年5月20日 第1957回定期演奏会 指揮:ファビオ・ルイージ
2022年6月11日 第1959回定期演奏会 指揮:ステファヌ・ドゥネーブ
2022年6月17日 第1960回定期演奏会 指揮:ステファヌ・ドゥネーブ

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2022年1月21日 第1949回定期演奏会

指揮:ジョン・アクセルロッド

曲目: ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26
ヴァイオリン独奏:服部 百音
ブラームス 交響曲第3番 ヘ長調 作品90

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:西山、フルート甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、ティンパニ:久保

弦の構成:協奏曲;12型、交響曲;14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 昨年の11月30日に発令された外国人の入国禁止措置は、12月から1月にかけてのオーケストラ公演やオペラに大きく影響を与えました。逆にそれ以前から日本に滞在していた指揮者は引っ張りだこで、先月N響を振ったデスピノーザは、新国立劇場で「さまよえるオランダ人」と「愛の妙薬」を振ることに決まりましたし、今月N響を振るジョン・アクセルロッドも12月は読響でこれも代役で第九を振ったばかりです。今回の定期公演で、アクセルロッドは当初予定されていたトゥガン・ソヒエフのプログラムをそのまま踏襲しました。なお、ブルッフの協奏曲のソリストはワディム・グルズマンがアナウンスされていましたが、こちらも日本人若手の服部百音に変更になりました。

 さて、演奏ですが、ブルッフは今一つだったというのが本当のところでしょう。服部百音の演奏は全体的に申し上げれば伸びやかさにも力強さにも欠ける演奏でした。まず問題なのは、全体の力強さ不足です。ソリストなのですから、しっかりとオーケストラに対峙して、オーケストラの音に乗って行かなければいけないのですが、服部は全体的にひ弱で、オーケストラの音に負けている。またアクセルロッドもそこまでソリストに合わせようとは思わない指揮者のようで、オーケストラを鳴らさせる方向に行っていたと思います。

 服部の音は取り立てて美音というほどでもなく、特にピアノで演奏するとその弱音には芯が入っておらず抜けて聴こえてしまう。そこも問題です。緊張していて腕が縮こまっていたのsでしょうか?彼女らしさが見えない残念な演奏だったと思います。

 一方後半のブラームス。個人的には好きなタイプの演奏ではないのですが、アクセルロッドの世界観が垣間見えて楽しめました。自分が好きなのは、もっと精妙な整然とした演奏。しかし、アクセルロッドはもっと生気を持った攻めの演奏をしてきます。わりと細かい速度調整をしているのですが、拍の頭が若干長めに取って、後半は短めに取っている感じです。このため、推進力が出て前のめりになっているように聴こえます。私はこういう演奏がいいとは必ずしも思わないのですが、生々しい感じがブラームスの一面を示しているのだ、と言われればそうなのかもしれない、とも思います。N響はもちろん整然とついて行き立派。聴き手を納得させられるだけの内容はあったなと思います。

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2022年2月5日第1951回定期演奏会

指揮:下野 達也

     
曲目: シューマン 序曲、スケルツォとフィナーレ 作品52 から「序曲」
シューマン ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
    ピアノ独奏:小林 愛実
  シューマン 交響曲第2番 ハ長調 作品610

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:森田、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、ティンパニ:久保

弦の構成:協奏曲;12型、その他;14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 昨年の11月30日に発令された外国人の入国禁止措置はまだ緩められる気配がみられません。そんなわけで、首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィの来日も果たせず、下野竜也と昨年ショパン・コンクールで第4位に入賞した新鋭・小林愛実が登場してのオールシューマンプログラムとなりました。

 最初は「序曲、スケルツォとフィナーレ」から「序曲」だけの演奏。「序曲」だけを切り離して演奏されるのは珍しいと思います。私は初めての経験。全曲演奏しても17-18分の曲ですから全部演奏して欲しいところですが、時間の関係もあるのでしょう。仕方がありません。曲は序奏付のソナタ形式で軽快な曲。下野竜也はこういう曲を得意としている印象があるのですが、特に踏み込むこともなく、と言っていい加減でもなく、全体としては割とあっさりと演奏した印象です。

 続く「ピアノ協奏曲」。小林愛実はダイナミックな演奏を心がけていたのだろうと思います。でも、それはあまりうまくいかなかったというのが本当ではないでしょうか。特に第一楽章。がんがん弾いて、確かに音の粒立ちは悪くないのですが、どの音にもアクセントが掛かっているような感じになって、和音が繋がって聴こえない。クリアではあるのですが、音楽としての流れはどうなんだろう、と感じてしまいました。またテンポ感も下野竜也と微妙にずれている感じがあって、オーケストラとの受け渡し部分もちょっとぎくしゃくしていました。

 逆に小さく演奏する方は美しい。第二楽章の緩徐楽章は柔らかい手首で猫のように鍵盤を叩き、雰囲気の感じられる美音に仕上げてきました。第3楽章はピアニストのヴィルトゥオジティを見せるところ。駆け抜けたのですが、途中、自分が思っていた音と違う音が聴こえてきて、「あれッ」と思うところが2,3か所ありました。彼女レベルの人がそんなにミスタッチとも思えないので、私がこれまで聴こえていなかっただけなんでしょうけど、ちょっと驚きました。

 シューマンの第2番。オーボエのアクシデントが微妙の影響した感じです。オーボエのリードは微妙なものらしく、何本かに1本しか上手くできないという話はオーボエ奏者がよくするところですが、今日は𠮷村結実のリードにアクシデントがあったようです。第2楽章が終わったところで交換して演奏を始めたのですが、リードが楽器に上手くフィットしていなかった様子で、長い音が上手くいっていない感じでした。指揮者がアクシデントを意識した指揮になるのは仕方がないところで、アダージョ楽章は、より遅いアダージョになったかな、という印象です。そういうアクシデントはあっても何とか上手くまとめるのが、N響の実力なのでしょう。アクシデントが起こる前の第二楽章の躍動感は見事でしたし、フィナーレ楽章も何事もなかったかのように突き進み、この曲の持つロマンティックな味わいをしっかり示していたと思います。

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2022年2月11日 第1952回定期演奏会

指揮:鈴木 雅明

曲目: ストラヴィンスキー 組曲「プルチネッラ」
  ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:森田、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:西山、フルート甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:古賀、テューバ:客演(フリー奏者の小嶺たか代 さん)ティンパニ:植松、ハープ:早川、ピアノ:客演(フリー奏者の鈴木慎崇さん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:プルチネッラ:5-5-4-4-4、ペトルーシュカ;12-12-10-8-6

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 鈴木雅明はこれまでN響の指揮台に4回立ち、有難いことにその全てを聴くことができました。演奏したのはハイドンから武満まで様々。シューマンの交響曲1番「春」やモーツァルトの第39番のような王道の作品から、ラーションのサクソフォーン協奏曲のように滅多に聴くことのできない作品までさまざまですが、どの演奏も非常に溌溂としたオーケストラの上手さを引き出す演奏で大変感心しました。申しあげるまでもなく、鈴木はバッハやバロック時代の演奏で世界に知られているわけですが、古典派以降、現代にいたるまでの作品解釈とオーケストラドライブでも素晴らしいものを聴かせてくれました。

 そして今回がN響5度目の登場。持って来たのはストラヴィンスキーの二曲の道化を主人公にした2曲のバレエ音楽。どちらの曲も色々な意味で難曲ですが、鈴木の攻めの指揮とそれをしっかりと受け止めるN響の演奏技術が素晴らしい。

 「プルチネッラ」オーケストラの編成が特殊です。元々新たに発見されたペルゴレージの曲からの編曲という建前で、クラリネットを欠いていますし、弦楽器も五部の首席奏者がソリストを務め、残りのトゥッティの奏者も4-4-3-3-3と人数が決められています。全曲版ですとソプラノ、テノール、バスのソロが入って組曲版より10分ほど長くかかりますが、今回は組曲版。

 オーボエが活躍する作品ですが、青山さんのオーボエが美しい。弦楽五重奏のソロとの受け渡しは室内楽的美しさはあるし、それでいて華やかで重厚な部分もある。個々の楽器がきっちりと主張しながら音楽が流れている感じで、いいバランスでした。なかなか聴く機会のない作品ですが、聴いていると古典の編曲というよりも現代の音楽だな、と思いました。

 後半のペトルーシュカ。こちらもオーケストラ個々人の技術と曲全体の流れがいいバランスで組み合わされ、かっこよく仕上がりました。長谷川さんのトランペットファンファーレが特に目立ちますが、木管四部ともいい感じでしたし、打楽器もバスドラム、スネアドラム共に素晴らしい。元々ピアノ協奏曲として発案された作品ということでピアノソロも活躍しますが、そのソロはオーケストラのピアノパートを客演でよく演奏される鈴木慎崇さんが勤めました。鈴木さんのピアノはさほど主張の強いものではないと思いましたが、オーケストラのメンバーほどには主張しており、いいバランスを示すのに有益でした。

 全体的には明るい音色で華やかな演奏だったと思いますが、低音が主張する部分はしっかりと低音が主張しており、そのダイナミクスの幅広さも良かったです。

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2022年4月9日第1954回定期演奏会

指揮:クリストフ・エッシェンバッハ

 
曲目: ドヴォルザーク 序曲「謝肉祭」
モーツァルト フルート協奏曲第1番 ト長調 K.313
    フルート独奏:スタティス・カラバノス
  ベートーヴェン 交響曲第7番 イ長調 作品92

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:客演(千葉交響楽団の大森啓史さん)、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、テューバ:客演(フリー奏者の大森啓史さん)ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:協奏曲:12型、その他:14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 新型コロナの第6波の拡大により1月、2月と外国人の入国が厳しく制限され代役の指揮者が演奏したわけですが、ようやく入国制限が緩和され、当初の予定通りエッシェンバッハが指揮台に立ちました。私がクラシック音楽を好んで聴くようになった中学生の時、エッシェンバッハは30代の若手ピアニストの一人だったと思うのですが、バレンボイムやアシュケナージと同様にいつの間にかピアニストしてよりも指揮者としてのほうが有名になりました。もう80を超え、巨匠の一人と言っていいのでしょう。

 ドイツ系の指揮者としてドイツ音楽に比重を置いて活動されていますが、演奏は重厚というよりも曲の特徴をより極端に表現しようとするもののようです。2017年にブラームスの交響曲を演奏したときは、エッシェンバッハの割と極端なスタイルがN響が慣れなかったようで、緻密さに欠けている感じになったと思います。今回はそもそもがアレグロの曲で、そのアレグロがプレストのように演奏されましたが、方向性は一致していたのかな、という印象です。

 ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」。華々しく始まって華々しく終わる演奏会用序曲ですが、まさに華々しく始まって華々しく終わったと思います。指揮者のスピード感とメンバーのスピード感が一致している感じで上手くまとまりました。

 二曲目のモーツァルトのフルート協奏曲1番。独奏フルートのカラバノスという方はギリシャ人だそうですが、フルートの音色はフランス風ではないかと思います。見た目はいかついですがフルートは美音です。エッシェンバッハとは共演が多いそうです。演奏はモーツァルトの軽快なメロディーを美音で進めていくもの。エッシェンバッハも他の曲とは違って、カラバノスのテンポに乗せた形でN響をドライブしていたように聴きました。

 最後の「ベト7」。すさまじい演奏でした。基本的に楽譜の表情記号に対してもう一段速いテンポで終始突き進みました。もちろん楽章の切れ目は全てアタッカ。この舞踏交響曲の本質的な緊張感を更に強めたようなスリリングな演奏だったと思います。ひとつ間違えればバラバラになりそうなスピードでしたが、そこは流石にN響。やや振り回される傾向はあったものの、終始一致団結して突き進み、フィナーレまで一切緩むことなく走り切りました。結果として聴き手を大いに興奮させる演奏だったと思います。やりすぎという気もしますが、パンチも力感もありました。

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2022年4月15日第1955回定期演奏会

指揮:クリストフ・エッシェンバッハ

  マーラー 交響曲第5番 嬰ハ短調

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、テューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 新型コロナウィルスの流行が始まってから、大規模オーケストラ曲の演奏は避けられてきました。大きな理由は、「密を避ける」ということで、舞台に上がれる人数に制限があったことです。そんなわけで、合唱付きの作品や100人もの人が必要な4管編成の曲などは避けられてきました。大規模オーケストラ曲の代表であるマーラーの交響曲も全部がキャンセルになりました。申しあげるまでもなくマーラーは人気作曲家でN響では年に1-2回は必ず取り上げてきましたし、新型コロナのおかげで定期演奏会が全て中止になった2020-202シーズンでも、6番「悲劇的」が予定されていました。しかし演奏されることはなく、2020年1月以来2年ぶりにマーラーの交響曲が取り上げられました。

 演奏されたのは5番。マーラーの交響曲の中では比較的小ぶりですが、それでも90人以上の奏者を必要とします。今回は、弦楽器を14型と通常よりも1プルト小ぶりにしましたので、本来よりは10人舞台に乗る人が少なかったのですが、奏者の合計が84人、それに指揮者のエッシェンバッハで85人が舞台に乗り壮観でした。

 前回演奏されたマーラーは2番「復活」だった訳ですが、その時の指揮者が奇しくもエッシェンバッハ。その時の演奏はゆったりとした大河の流れのような演奏で、素晴らしい演奏だったのですが、その後の2回の演奏会はアレグロな前のめりの演奏を行ったと思います。今回のマーラーがどうなるかが興味のあるところでしたが、結論を申し上げればオーソドックスな聴かせる演奏だったと思います。この曲は冒頭のトランペットファンファーレで曲の基本的な速度が決まるのだと思いますが、エッシェンバッハは、その流れに逆らうことはなく、安定的に楽器を歌わせたように思います。速すぎも遅すぎもしないので、楽器がたっぷりと鳴り、十分な迫力が生まれました。どの楽章も色彩が濃い感じで進んだと思います。

 有名なアダージェットはもっと静謐に演奏するやり方もあると思うのですが、ここも割と普通に鳴らさせてロマンティックな臭いはやや希薄だったとは思いますが、全体的なバランスから見れば適当だったのかなと思います。フィナーレの盛り上がりも急激すぎず、中間部のスケルツォも極端ではなく、全体として中庸な演奏だったと思います。N響管楽器陣の名技も堪能しました。

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2022年5月20日第1957回定期演奏会

指揮:ファビオ・ルイージ

  モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
  モーツァルト ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
      ピアノ独奏:アレクサンドル・メルニコフ
  ベートーヴェン 交響曲第8番 ヘ長調 作品93

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:客演(東京都響の西條貴人さん)、トランペット:長谷川、ティンパニ:客演(名古屋フィルのジョエル・ビードリッツキーさん)

弦の構成:協奏曲:12型、その他:14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 ファビオ・ルイージの良さが光る演奏会だったと思います。歌謡性が感じられると申し上げると的確かもしれません。

 「ドン・ジョヴァンニ」の序曲は、そのままオペラが流れていく雰囲気かと思いきや、モーツァルトの書いた演奏会用終結部というのが使われていて、ちょっと新鮮でした(初めて聴いたわけではないと思いますが、記憶にありません)

 第二曲目はロシア人ピアニスト・メルニコフをソリストに迎えてのモーツァルトニ短調ピアノコンチェルト。メルニコフはモーツァルトを演奏するためだったからかもしれませんが、ペダルの使用を控えて弱音の粒立ちをしっかりっ見せる演奏。この作品はモーツァルトの短調の曲の代表作として看做されるわけですが、この曲で言われる劇的な味わいはダイナミクスの中で感じられなかったわけではありませんが、比較的希薄だったように思います。メルニコフの中には、今のロシアのウクライナ侵攻に対するネガティヴな思いがあって、それがこの曲をこの曲らしく聴かせられなかったのかもしれないと思いました。

 N響の伴奏は、ピアノソロが入る前の管弦楽だけで進む部分が、ピアノの導入の音量に合わせたのかかなり弱い音量で進み、結果としてスカスカに聴こえてしまったのは残念でした。もう少し強い音で演奏して、ディミニエンドしながらピアノに道を譲るようなやり方の方が良かったかもしれません。ピアノが入ってからのバランスは悪くないとは思いましたが、ピアニストの屈折した思いがオーケストラにも伝わったのか、今アひとつすっきりしない感じはありました。

 ベートーヴェンの8番。ルイージの本領発揮の演奏でした。クリアで颯爽としていて、この作品の舞踏性と歌謡性をしっかり前面に出したと申しあげられると思います。第一楽章はリズムのメリハリがしっかりしているけど、その長さには微妙な揺れがあってそこに歌謡性が示されてくる。第二楽章はまさに歌を感じさせる演奏。言ってみればロッシーニのオペラアリアの味わいです。こんな風に思えたのは多分初めての経験。第三楽章はメヌエットでこれまた優雅な舞曲、フィナーレはベートーベンらしいフィナーレで、演奏もN響のドイツ的な側面が出た一致団結した疾走。全体としてイタリア人指揮者の歌謡性の強さとベートーヴェンの構成ががっちりと嵌った素敵な演奏でした。満足できました。

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2022年6月11日第1959回定期演奏会

指揮:ステファヌ・ドゥネーブ

  デュカス バレエ音楽「ぺり」(ファンファーレ付き)
  ラヴェル シェエラザード
      メゾソプラノ独唱:ステファニー・ドゥストラック
  ドビュッシー 牧人の午後への前奏曲
  フロラン・シュミット バレエ組曲「サロメの悲劇」作品50

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:森田、ヴィオラ:村上、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:客演(元東京フィルの森博文さん)、トランペット:長谷川、ティンパニ:久保、ハープ:早川、チェレスタ:客演(フリー奏者の長尾洋史さん)

弦の構成:歌曲:12型、その他:14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 19世紀末から20世紀初頭にかかれたフランス音楽のフランス人指揮者による演奏会。

 全体的にはフランス音楽特有のグルーな感じがあまり感じられず明るさというか明瞭さが先に立った演奏だったと思います。

 最初の「ぺり」。なかなか演奏される機会がなく、私は初耳の曲です。金管楽器による華やかなファンファーレとその後の静かな入りが印象的です。唯全体押して思うのは、こんな曲なのね、という印象だけでした。

 2曲目の「シェエラザード」はドゥストラックの知的な表現が光りました。ドゥストラックは2021年新国立劇場「カルメン」のタイトル役で聴いています。その時の印象は「理知的なカルメン」でした。そして今回の演奏も熱を帯びるというよりはしっとりとした表情で、様子の違う3曲を表情を分けながら歌いました。今回演奏された4曲の中ではこれが一番良かったと思います。第2曲目の「魔法の笛」におけるフルートとの掛け合いが見事でした。

 牧人の午後への前奏曲は、印象派的な中間音というかあいまいさがあんまり感じさせないくっきりした演奏になっていて、私の趣味とは違います。

 最後の「サロメの悲劇」。明確な表情で強弱のはっきりした演奏で悪くはないと思いますが、じゃあ、どこが良かったのか、と言われるとちょっと印象があいまいな演奏だったと思います。オーボエ、イングリッシュホルン、コントラファゴットなどみんな上手だと思いますが、全体としては今一つぴんと来なかったというのが正直なところです。

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2022年6月17日第1960回定期演奏会

指揮:ステファヌ・ドゥネーブ

  プーランク バレエ組曲「牝鹿」
  プーランク オルガン協奏曲 ト短調
      オルガン独奏:オリヴィエ・ラトリー
  ガーシュウィン パリのアメリカ人

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:森田、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:客演(千葉交響楽団の大森啓史さん)、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チューバ:客演(東京芸大大学院生の小嶺たか代 さん)、ティンパニ:久保、ハープ:早川、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、サックス:客演(フリー奏者の大城正司さん、シエナ・ウインド・オーケストラの貝沼拓実さん、フリー奏者の東 涼太さん)

弦の構成:14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 先週よりも更に現代に誓いフランスとフランスにゆかりの音楽の演奏会。

 プーランクと言えば、「聖職者と悪童が共存する作曲家」と言われる存在ですが、N響でこれまで取り上げられてきた楽曲は宗教的な作品が多いし、私がよく知っているN響で演奏されていない作品もオペラ「カルメル会修道女との対話」や「人間の声」や宗教的な無伴奏の声楽曲で軽妙洒脱な作品とはあまり縁がありませんでした。今回演奏されたバレエ組曲「牝鹿」は彼の初期の代表作ですが実演で聴いたのは初めてです。標準的な三管構成のオーケストラから出てくる音は確かに軽妙洒脱ではありますが、よく言われる「透明感」を感じさせる音楽というよりは、結構厚みがあって、しっかりした音楽という印象です。

 ドゥネーブは軽快に演奏したというよりは、印象的なフレーズを演奏するソロ楽器、トランペット、イングリッシュホルン、といった楽器をしっかり鳴らしていたと思います。打楽器のリズムの刻みも音楽を盛り上げていたように思いました。

 2曲目の「オルガン協奏曲」は、東京芸術劇場ならではの響きだったと思います。使用されたのは銀色に光るモダンオルガン。オルガンというと木質系のものを想像していたので流石20世紀音楽だな、とまず思ったのですが、その響きはかなりゴージャスでした。オルガンはホールそのものが楽器と言われるところですが、ストップを全開にして響く低音は信じられないほどの迫力で自分の身体が振動していることが分かります。その1台の巨大な響きと比較すると、14型のオーケストラも、オルガンに寄り添うようにして割と軽めに叩かれるティンパニも児戯のように聴こえてきました。ドゥネーヴもオルガンに全てを任せている感じで、その響きに沿ってオーケストラを誘導しているように聴きました。

 「パリのアメリカ人」は聴衆の評判がとてもよかった印象です。ちなみにこの作品は私が定期会員になってからN響定期で取り上げられたのは多分初めて。音楽に関しては自分自身はクラシック音楽を楽しみ始めた最初期はよく聴いていた曲ですし、MGMミュージカルの「パリのアメリカ人」でジーン・ケリーが踊るフィナーレもよく覚えています。その自分の記憶にある過去の演奏と比較すると思った以上に靄っとした演奏だったと思います。音のバランスもかつて聴いていた録音と比較すると違って、思ったほど管楽器が響いてこない感じで、パリの喧騒の表現が今一つぱっとしない印象でした。そういうところを目立たせないのがドゥネーヴ流なのでしょうが、私の好みとは違っていました。スタンディングオベーションをしていた方は何にそこまで惹かれたのでしょうか、人の好みに何かをいう必要はないのですが、私には理解できない感覚です。

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