NHK交響楽団演奏会を聴いての拙い感想-2023年(後半)

目次

2023年9月9日 第1989回定期演奏会 指揮:ファビオ・ルイージ
2023年9月15日 第1990回定期演奏会  指揮:ファビオ・ルイージ
2023年10月20日 第1993回定期演奏会 指揮:高関 健
2023年11月10日 第1995回定期演奏会  指揮:ゲルゲイ・マダラシュ
2023年11月25日 第1997回定期演奏会 指揮:平石 章人/湯川 紘恵
2023年12月1日 第1998回定期演奏会  指揮:ファビオ・ルイージ
2023年12月17日 第2000回定期演奏会 指揮:ファビオ・ルイージ

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2023年9月9日 第1989回定期演奏会

指揮:ファビオ・ルイージ

曲目: R.シュトラウス 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28
R.シュトラウス ブルレスケ ニ短調
ピアノ独奏:マルティン・ヘルムヒェン
R.シュトラウス 交響的幻想曲「イタリアから」作品16

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:森田、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、テューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:植松

弦の構成:15-14-12-10-8

会場:NHKホール 

感想

 N響の2023-2024シーズンがスタートしました。シーズン最初は首席指揮者、ファビオ・ルイージによるオール・リヒャルト・シュトラウスプログラム。「ティル」は割と有名な曲ですけど、他の二曲は演奏機会が多い曲とは言えません。私は「ブルレスケ」は二度目、「イタリアから」は初めて聴く曲になります。

 今回の三曲に通ずるテーマは「笑い」でしょう。それもR・シュトラウスらしい屈折した笑い。その笑いの音楽をルイージは生真面目に演奏しあという印象です。

 「ティル」は5つのエピソードは最初は素っ気なく、だんだん盛り上げていくオーソドックスな演奏だったと思います。私個人としては最初からもう少し盛り上げてくれる方が好みです。もちろんN響はとても上手だったのですが、聴かせどころの「ティル・オイレンシュピーゲル」の第一テーマの最初のホルンが完璧ではなかったのが惜しまれるところ。そこがもっとうまく決まっていれば、もっと盛り上がった演奏になった気がします。

 「ブルレスケ」は、ヘルムヒェンのピアノが素敵。ピアノをソフトペダルを多用しながら柔らかく扱っていきます。後半の超難しそうなカデンツァを何でもないかのように柔らかく弾きこなすところに感心しました。この曲は冒頭がティンパニのソロで、ティンパニとピアノとの掛け合いが凄くいい感じなのですが、植松さんのティンパニが格好いい。このティンパニの響きとピアノの柔らかい響きが重なると、何とも言えないいびつなおかしさが生まれます。もちろん、他のオーケストラメンバーもいい感じで、今回の白眉の演奏だったと思います。

 「イタリアから」。シュトラウスが絶対音楽から標題音楽へ移行する過渡期の作品ということで、タイトルはついていますけど、中身は絶対音楽的です。とはいえ、後期ロマン派の終わりごろの作品ですので、あいまいな調性感が何とも言えない味になっています。第4楽章が「フニクリ・フニクラ」のパラフレーズです。これはシュトラウスがこの曲を登山電車のコマーシャルソングであることを知らず、古くから伝わる民謡と勘違いして用いたそうですが、結果として表題である「ナポリ人の生活」をパロディ的に示すことになったように思いました。演奏はN響の水準レベルのもので悪いものではなかったのですが、アインザッツの揃い方などに甘いところもあり、それなりだったのではないかと思いました。

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2023年9月15日 第1990回定期演奏会

指揮:ファビオ・ルイージ

曲目: ワーグナー(フリーヘル編) 楽劇「ニーベルングの指環」-オーケストラル・アドベンチャー-

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:客演(マインツ州立管弦楽団の西村尚也さん)、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:客演(読売日本交響楽団前首席奏者の蠣崎耕三さん)、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:佐々木、トロンボーン:古賀、テューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:植松

弦の構成:15-14-12-10-8

会場:NHKホール 

感想

 ワーグナーの「指環」を全部聴きとおそうとすると15時間、4日かかります。またワーグナーの楽劇は、オーケストラと歌が対等の関係にあるから、オーケスオラ部分を切り出してもそれなりに面白い。そんなわけで、昔から「指環」の管弦楽曲集はレコード会社のドル箱でしたし、そういう演奏会も時々行われます。N響でも2009年にエド・デ・ワールトの指揮により、今回と同じヘンク・デ・フリーハー編曲の「指環-オーケストラル・アドベンチャー」が演奏されましたし、2012年にはロリン・マゼール指揮で、彼自身が編曲したオーケストラ音楽が演奏されています。また、私は聴いていないのですが、2018年にパーヴォ・ヤルヴィが「ニーベルングの指環管弦楽曲集」として、「ヴォータンの別れと魔の炎の音楽」や「ワルキューレの騎行」など6曲が取り上げられています。そんなわけで私も時々聴く機会があるわけですが、いつもこの手の演奏会を聴いて思うのは、「歌あってのワーグナーだよな」です。今回も例外ではありませんでした。

 実は2008年のワ―ルトは14曲中「ラインの黄金」由来の4曲はカットし、その代わり最後にソプラノのスーザン・ブロックが入って「ブリュンヒルデの自己犠牲」が歌付きでやられたのですが、ブリュンヒルデが入ると、雰囲気が全然変わったように覚えています。ワーグナーのオーケストラの迫力は素晴らしいとは思いますが、やっぱり歌があってこそなのでしょう。

 今回も聴いていて思ったのは自分がオペラ好きだということもあるのでしょうが、オーケストラだけだと結構間が抜けた感じがするのです。ここで盛り上がって、歌手が登場して本当はこう歌うのだ、と思いながら聴いていても実際は次の曲に行ってしまう訳で、肩透かしを食らった気分。また、編曲自体もそれほどスペクタル・スペクタルしていなくて、特に「ラインの黄金」の音楽などは、さほど面白くない。そのせいもあるのか、N響の演奏も眠そうな感じがしましたし、演奏もちょっとばらけている感じ。

 その演奏がぐっと盛り上がったのは、「ジークフリート」にかかる音楽の部分。ホルン首席の今井さんが素晴らしいソロを披露し、Bravo。こういう演奏を聴くと、楽員もその気になるようで、後半は集中力の上がった非常に素晴らしい演奏に変化したと思います。

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2023年10月20日 第1993回定期演奏会

指揮:高関 健

曲目: ニールセン アラジン組曲作品34〜「祝祭行進曲」、「ヒンドゥーの踊り」、「イスファハンの広場」、「黒人の踊り」
シベリウス 交響曲第2番 ニ長調 作品43

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:森田、ヴィオラ:佐々木、チェロ:客演(日本フィルの門脇大樹さん)、ベース:客演(新日本フィルの菅沼希望さん)、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:客演(名古屋フィルの安土真弓さん、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、テューバ:池田、ティンパニ:植松

弦の構成:16-16-12-10-8

会場:NHKホール 

感想

 10月の定期公演はN響桂冠名誉指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットが一年ぶりで来日して指揮する予定だったのですが、体調不良のため来日できなくなりました。96歳、最長老の指揮者ですからやむを得ません。そのため、Aプログラムのブルックナーの第5番交響曲は休演、このCプログラムは元のプログラムを変更せずに高関健が指揮台に上りました。

 急な代演ということで、また特に「アラジン組曲」はあまり演奏されない曲(私は初めて聴きました)ということもあって、全体的にはそれなりの演奏だったというところでしょう。

 それでも2曲のうちどちらが良かったかと問われれば、私は「アラジン」組曲を採りたい。滅多に演奏されない曲ということもあってN響メンバーもしっかりさらって来たということはあるのでしょうが、上手くいった感が強かったです。特に3曲目の「イスファハンの広場」は広場の情景を点描する音楽のようで、4つのテンポも旋法も違う音楽が互い違いに出てくる曲で、タイミングを合わせるのが難しそうですが、そういうところはN響の巧さで乗り切りました。全体的に明るい響きでよかったと思います。

 一方二曲目のシベリウス。こちらは一曲目ほどは上手くいっていなかった感じ。本来はもっとすっきりとした音になると思うのですが、特に第一楽章、第二楽章は、指揮のタイミングの捉え方が楽員同士で微妙な違いがあった様子で、音が太くなったり詰ったりするところがあった印象です。それは次第に解消され、最後はきっちりまとまって、素晴らしいファンファーレとなったわけですが、最初からそうはならなかったところが急な代演の影響なのかもしれません。

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2023年11月10日第1995回 定期演奏会

指揮:ゲルゲイ・マダラシュ

曲目: バルトーク ハンガリーの風景 Sz.97 BB 103
リスト ハンガリー幻想曲 S123
ピアノ独奏:阪田 知樹
コダーイ 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」
ツィンバロン:斉藤 浩

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:郷古、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:池田、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、サクソフォーン:客演(フリー奏者の大城正司さん)、ホルン:今井さん、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、テューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の楠本由紀さん)

弦の構成:バルトーク、リスト 14型、コダーイ 16型

会場:NHKホール 

感想

 ゲルゲイ・マダラシュは本年39歳、若手のハンガリー人指揮者です。N響とは初共演で、私も聴くのは初めて。レパートリーは古典派からロマン派中心であるそうですが、今回取り上げたのはお国の音楽であるハンガリーゆかりの音楽。演奏は若々しい軽快な音楽で一貫しており、いい時間を過ごすことができました。

 バルトークの「ハンガリーの風景」は私は初めて聴きました。彼のピアノ小品5曲を管弦楽曲に編曲した曲だそうで、原曲に関してはどこかで聴いたことがあるかも知れないと思いました。描写音楽として書かれていますが、どの曲も2-3分の短いもので、全部で10分ほどの曲。どの曲も「盛り上がる前に終わる」という感じで、「もう少し盛り上がるともっと楽しいかな」、とは思いました。民謡的な旋律・リズムとともに、無調的な響きもあって、そこが面白いとも思いました。

 リスト。阪田知樹。初めて聴きましたが、最近の若手ピアニストらしく技巧的かつ軽快なピアノを演奏する人だな、というのが印象。音色がクリアで濁らないせいか、フォルテで弾いても透明感がしっかりあってそこが素晴らしいと思いました。この曲も生で聴くのは初めての経験なのですが、昔の大家の録音ではもっと豪快な曲という印象だったのですが、阪田が演奏するとすっきりした印象が強い。指揮者が若いせいかオーケストラもすっきりと演奏されているようで、ピアノとオーケストラとの掛け合いもすっきりした印象が強いと思いました。いい演奏だったと思います。

 「ハーリ・ヤーノシュ」組曲。内容的には法螺話の描写音楽ですが、マダラシュがそういう演奏に仕上げたかったのでしょう、おどけた印象よりも清潔感のある演奏でした。沢山の楽器が使用されますが、一曲でしか使用されない楽器も多く、また第2曲と第4曲は弦楽が全く使用されないという珍しい編成です。そのせいか、けれんみを少なくしてまっとうに演奏すると本当にすっきりと聴こえます。またそのような編成だとN響メンバーの個人技のレベルの高さが味わえます。今回は特にオーボエ。今回のオーボエは本来ならば首席奏者の𠮷村結実さんが演奏するはずだったのですが、急な体調悪化で急遽普通はイングリッシュホルンや2番オーボエを担当する池田昭子さんが代役を勤めました。その池田さんのオーボエも素晴らしいもので、N響の層の厚さとメンバーの実力の高さを改めて感じました。

 指揮者やソリストの若さが気負いや空回りに繋がらずに透明感のある演奏でまとまって、とてもすてきだなと思いました。


2023年11月25日第1997回 定期演奏会

指揮:平石 章人

曲目: スヴィリトフ 小三部作
プロコフィエフ 歌劇「戦争と平和」より「ワルツ」(第2場)
アントン・ルビンシュタイン 歌劇「悪魔」のバレエ音楽「少女たちの踊り」
グリンカ 歌劇「イワン・スサーニン」より「クラコーヴィアク」
リムスキー・コルサコフ 歌劇「雪娘」組曲

指揮:湯川 紘恵

曲目: チャイコフスキー(フェドセーエフ編曲) バレエ組曲「眠れる森の美女」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:客演(読売日本交響楽団の金子亜未さん)、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:客演(群馬交響楽団の竹村淳司さん)、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、テューバ:客演(フリー奏者の芝 宏輔さん)ティンパニ:植松、ハープ:客演(フリー奏者の石丸瞳さん)ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:16型

会場:NHKホール 

感想

 11月定期Aプログラムの指揮者はウラジーミル・フェドセーエフがアナウンスされており、フェドセーエフはロシアのバレエ音楽を中心にプログラムを組みました。メインはフェドセーエフが自らセレクションしたチャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」の組曲で、その他は、ロシア人作曲家の歌劇のバレエ音楽を主に選択しました。この中で「眠れる森の美女」は流石にN響でも時々取り上げられますが、それ以外はなかなか聴く機会がありません。私はオペラ好きですが、それでも今回取り上げられたオペラ作品の上演を見たことはひとつもありませんし、曲として聴いたことがあるのは「戦争と平和」のワルツだけです。

 フェドセーエフらしい凝ったプログラムとも言えますが、今年91歳になる高齢のフェドセーエフ、ドクターストップがかかってしまい来日できなくなりました。代役がいればよかったのですが、このような偏ったプログラムを演奏してくれる指揮者はいなかったのでしょうね。といって、先月のブロムシュテトに引き続き休演という訳にも行かず、N響の指揮研究員で、フェドセーエフの薫陶を受けたことがあり、またフェドセーエフ編の「眠れる森の美女」の楽譜作成にも携わった若手の二人、平石章人と湯川紘恵に指揮台を任せることにしたそうです。

 N響にとっては苦渋の判断であったことは容易に推測できることですが、若い二人にとってはチャンスでもあり、私は楽しみに伺いました。

 二人は思いがけない大舞台にかなり緊張されていたと思いますが、N響メンバーも優しくフォローして演奏全体としてはいつものN響水準をしっかり保っていたと思います。首席奏者の技の切れはいつも以上だと思いました。ただ、演奏における指揮者の個性の表出という点では二人ともまだまだだなというのが率直な印象です。とはいえ二人とも、音楽を進めたいところはしっかりそのように振っていたと思いましたし、音を欲しい時はその指示も出していたので、指揮者としてやるべき必要なことは行っていたと思います。

 その中から垣間見られた音楽的特色は、前半を振った平石章人はわりとかっちりとした輪郭のはっきりした楷書体の演奏をする人だな、という印象。すっきりとしていますが、もう少し強い主張があってもいいのかなとは思いました。後半を振った湯川紘恵は平石よりはロマンティックな色合いの強い演奏をされたと思います。そこは曲に似合っているのかなと思いました。もちろん曲想が違うのでそう聴こえただけかもしれません。二人の間に違いは感じられましたが、全体としてそんなに大きな音楽的個性の差があったという印象はあまりなく、二人とももっと自分の音楽を作り上げる工夫をされるといいのかもしれないと思いました。


2023年12月1日第1998回 定期演奏会

指揮:ファビオ・ルイージ

曲目: フンパーデンク 歌劇「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲
ベルリオーズ 幻想交響曲 作品14

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:ゲストコンサートマスター(オタワ・ナショナル・アーツ・センター管弦楽団コンサートマスターの川崎洋介さん)、2ndヴァイオリン:森田、ヴィオラ:村上、チェロ:辻本、ベース:客演(新日フィルの菅沼希望さん)、フルート:客演(都響の松木さやさん)、オーボエ:客演(読売日本交響楽団前首席奏者の蠣崎耕三さん)、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、テューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:16型

会場:NHKホール 

感想

 「幻想交響曲」がまごう事なき名演でした。N響で「幻想」といえば、デュトワ、フルネ、チョン・ミョンフンなどが名演を聴かせてきたわけですが、今回のルイージの演奏もそれらの演奏史に新たな1ページを加えたと申し上げてよいと思います。

 ルイージが、この曲をどのように演奏したいかを指揮姿を見ているだけでよく分かるような指揮ぶりでした。全身を大きく使い、手の振りも身体を大きく伸ばしたところから振り下ろしたり細かく動かしたりと変幻自在。指揮台の上で飛び跳ねたりすることはありませんでしたが、指揮台の上を縦横無尽に動き回って、こういう演奏をしたいのだ、という主張をしっかり示したと思います。

 第1楽章は、波の満ち引きのような音楽作りが特徴でした。同じ4分音符でも微妙な緩急をつけて演奏させているわけですがそれが分かりやすいのか弦楽器のトゥッティの音が濁らない。そこにびっくりしました。そういうクリアな音作りが後半の激しい音楽になってから利いてきます。

 「幻想」はベルリオーズが先進的な管弦楽法を使った作品とされていますが、特に重要なのは低音の重視だと思います。ファゴットを4本使用したり、オフィクレイド2本(今回はテューバ2本で演奏)入れたりして、バスを強調する。ルイージはバスの強調もかなり意識してやったようで、本来1台の大太鼓を2台に増やして低音部を増強します。またコントラバスにもガシガシ弾かせて、ピツィカートの弦を弾く音の激しさはあまり聴かないレベルです。そのようにして低音の強調をしっかりやっているのですが、音楽が重くならない。低音部が強調されても音楽としての推進力は常に保たれ、フィナーレに至ります。素晴らしいと思いました。

 第1曲の「ヘン・グレ」の前奏曲。こちらのオペラはよく聴くのでこの前奏曲もおなじみですが、N響の水準は違いますね。すっきりとしていて見通しの良い音楽で素敵でした。2曲、カーテンコール込みで正味1時間15分。いい時間を過ごすことができました。


2023年12月17回第2000回 定期演奏会

指揮:ファビオ・ルイージ

曲目: マーラー 交響曲第8番変ホ長調「一千人の交響曲」
ソプラノ独唱:ジャクリン・ワーグナー、ヴァレンティーナ・ファルカシュ、三宅理恵
 アルト独唱:オリシア・ペトロヴァ、カトリオーナ・モリソン
      テノール独唱:ミヒャエル・シャーデ
      バリトン独唱:ルーク・ストリフ
       バ ス独唱:ダービッド・シュテファンス
       合 唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)
      児童合唱:NHK東京児童合唱団(児童合唱指揮:金田典子)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:村上、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:歓談、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:古賀、テューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、オルガン:客演(フリー奏者の中田恵子さん)、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:16型

会場:NHKホール 

感想

 山田耕筰は日本初の常設オーケストラの母体となる日本交響楽協会を立ち上げ、近衛秀麿が合流するも内紛によって分裂し、近衛らが袂を分かつ形で新交響楽団を立ち上げたのが1926年10月。そして、第1回の定期演奏会が開催されたのは翌1927(昭和2)年の2月22日、指揮は近衛、演奏されたのは、メンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」、モーツァルトの歌劇「イドメネオ」がら舞踏音楽、そして、シューベルトのハ長調大交響曲だったそうです。その新響がNHK交響楽団に改称したわけですが、新響の第1回定期演奏会から96年目にして、N響の定期公演が2000回を迎えることになりました。戦争や災禍もあった中、連綿と定期公演を続けられた関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます。

 ちなみに第1000回の定期演奏会は1986年の10月1,2日にNHKホールにおいて、ウォルフガング・サヴァリッシュの指揮でメンデルスゾーンの「エリア」が演奏されました。私はこの時大学院の学生で、実験をしながら実験台においたラジオから流れるN響の音を聴いたのをよく覚えています。その時はまだ20代だった私がもう前期高齢者ですから、定期演奏会を1000回積み重ねるのは大変なことだろうと改めて思う次第です。

 さて、今回の選曲はファン投票によるもの。ファビオ・ルイージが2000回の定期演奏会を指揮することが決まった時、ルイージは3曲の候補曲を上げ、ファン投票で演奏曲目を選ぶことにしました。候補曲はマーラーの交響曲第8番のほか、シューマンのオラトリオ「楽園とペリ」、フランツ・シュミットのオラトリオ「七つの封印の書」でした。私はマーラーだけは外してほしいと思って、シューマンに一票を投じたのですが、私の願いむなしく、大方の想像通りマーラーが選ばれました。

 しかしながら一般の評判は上々、もともとミュンヘン博覧会1910という音楽祭のために作曲された祝祭的色彩の強い作品ですから、N響の2000回定期にぴったりとみんなが考えたのでしょう。入場チケットは早々に完売しました。私は本来は土曜日の定期会員で3階の中央2列目の席を持っています。しかし、今回は土曜が駄目になってしまったので日曜日に振替をお願いしたら、適当な席がなかったのでしょう。ワンランク下の、3階の最後方の左側の席を宛がわれました。いつもよりずっと舞台が遠く、オペラグラスを使っても、楽員の顔はピンぼけ状態。その席で鑑賞しました。

 舞台が遠いのは仕方がありません。しかし、音楽も遠いのです。いつものN響と聴こえ方が異なります。全体的に音が痩せて聴こえます。フォルテで演奏した音はそこまで気になりませんが、ピアノやピアニシモで演奏されると本当に聴こえない。聴こえなくても弱音に密度があればもう少し耳をそばだてようという気もすると思うのですが、飛んでくる音がスカスカなので、なかなかその気にもなれません。

 私がいつも聴いている3階前方は、私が色々なところを座ってみて、一番音がいいと思った場所です。NHKホールはクラシック音楽向きのホールではないとよく言われますが、私は「そこまでひどくないよ」と申しあげていたのですが、いつもの場所で聴いているN響と今日の位置で音があそこまで違うとは思っていませんでした。びっくりしました。その結果、自分自身が演奏に入り込めておらず困惑しています。

 もちろんファビオ・ルイージの指揮は素晴らしかったのだろうと思います。遠くから見ていても身体の動きがとても滑らかで、流麗。N響金管陣、木管陣のレベルの高さは申しあげるまでもない。児童合唱もとても美しく見事でした。一方、今日本一のプロの合唱団と申し上げてよい新国立劇場合唱団ももちろん立派だったと思いますが、エキストラのメンバーが多かったせいか、いつもほどきっちり揃ってまとまっているという印象はありません。また、合唱団と私の距離があるせいか、低音がやや遅れて聴こえる傾向があるように思いました。

 ソリストは第1ソプラノのジャックリン・ワーグナーと第1アルトのオリシア・ペトロヴァがいいと思いました。第2ソプラノのファルカシュは美声だとは思いましたが、NHKホールの空間を満たすほどの声はなかったというのが正直なところ。オルガン席で歌った三宅理恵も健闘しました。男声は低音の二人が良かったように思います。

 マーラーの8番をN響定期公演で聴いたのは3度目、最初が若杉弘の指揮した1992年1月の定期、次はデュトワの指揮による2011年の12月の定期。演奏の詳細は記憶にないのですが、どちらも圧倒された印象があります。2011年の記録を見ると120人のオーケスオラに350人ほどの合唱がついて、500人ほどが載っていたお思います。舞台から人が落ちそうなほど鈴なりでした。今回は、オーケストラの規模は楽譜通りで弦楽器の楽器の増強はなく、合唱メンバーについても新国立劇場合唱団は120名、児童合唱団は60人ほどではなかったでしょうか。全部で300人で普段よりは高密度でしたが、舞台から人が落ちそうなほど、という印象はありません。そういうことも音響の迫力が期待通りではなかった、ということと繋がるのかもしれません。


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