どくたーTのオペラベスト3 2009

第1位 5月1日  新国立劇場公演
ショスタコーヴィチ作曲「ムツェンスク郡のマクベス夫人」
字幕付原語上演  会場 新国立劇場オペラ劇場

第2位 6月14日  藤原歌劇団公演
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」
字幕付原語上演 会場 東京文化会館大ホール

第3位 8月30日 大田区民オペラ協議会公演
ヴェルディ作曲「シモン・ボッカネグラ」
字幕付原語上演 会場 大田区民会館アプリコ大ホール

ベスト歌手
森 麻季(ソプラノ)

優秀賞 
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」(錦織健プロデュースオペラVol.4、ハーモニーホール座間、3/26)
ワーグナー作曲「ワルキューレ」
「(新国立劇場公演、4/15)
モンテヴェルディ作曲「ポッペアの戴冠」
(新国立劇場コンサートオペラ、5/17)
清水脩作曲「修禅寺物語」新国立劇場公演、6/26)
ヴェルディ作曲「オテロ」(新国立劇場公演9/29)
プッチーニ作曲「蝶々夫人」(東京二期会オペラ劇場公演、10/9)
グルック作曲「思いがけないめぐり会い、またはメッカの巡礼」(北とぴあ国際音楽祭2009公演、11/13)
(優秀賞は上演順)

選考理由

 2009年は、41回オペラを見に出かけ、42本のオペラを鑑賞いたしました(演奏会形式を含む)。

 本年も昨年、一昨年と同様、バラエティに富んだオペラ上演があった、という印象が強い1年です。私の鑑賞記録を分類すると、42本中11本は、舞台上演を見るのが初めての作品でした。一方、今年は私にとって「愛の妙薬イヤー」で、1年間に何と6回も観てしまいました。珍しい作品を観るのも、良く知られた作品を繰り返し観るのも、どちらもオペラ観劇の醍醐味だろうと思います。

 私の鑑賞方針は、東京またはその近郊で行われる日本で制作された作品をお金と時間が許す限り観る、ということなのですが、本年もそれはほぼ守れたようで、本年上演された、新国立劇場、東京二期会、藤原歌劇団、東京オペラプロデュースの本公演は全部観ましたし、そのほか、大学オペラが3回、市民オペラが3回など色々な所に出向きました。結果として充実した1年だったと思います。

 一方、不況の影響なのか、オペラ会場でお客さんが減っているのが大きな心配です。新国立劇場も昔と比べたら明らかにチケットを買いやすくなりましたし、藤原歌劇団や二期会の公演でも空席が目立っていたような印象があります。更に今後を考えると、民主党政権の芸術に対する補助金見直しもオペラの発展にはマイナスに働くのでしょうね。私に集客のアイディアが特にあるわけではないのでただ心配するだけですが、日本のオペラ界の発展のためにも、関係者の方々には知恵を絞っていただきたいな、と切に望みます。

 2009年で忘れていけないのは、新国立劇場の音楽監督であった若杉弘さんが亡くなられたことです。若杉さんが日本のオペラの発展のために力を尽くした指揮者であることは、言を俟たないところです。私も彼の指揮したオペラもずいぶん観ました。彼の功績は、リヒャルト・シュトラウスのオペラの全貌を日本に紹介したこと、20世紀に作曲された現代オペラの紹介に力を注いだことなどがあると思います。若杉さんが音楽監督でなかったら、新国立劇場で、「軍人たち」、「ムツェンスクのマクベス夫人」、「ヴォツェック」が上演されなかったかもしれません。私は、若杉さんを個人的には全く存じ上げてはいないのですが、彼の印象は本当にオペラ好きなんだな、ということです。自分が指揮をしない作品でも時間があると会場で聴いていらっしゃいました。休憩時間にロビーで知人の方と談笑しているのを何度も見たことがあります。

 さて本年の全体感ですが、結構高水準の上演が多かったという印象です。例年不調を申し上げることの多い新国立劇場の公演が1,2の例外を除くといい演奏が多かったことがそう思える背景にあるのかもしれません。ベスト10には入れなかったのですが、1月の「蝶々夫人」、10月の「魔笛」、12月の「トスカ」の3つのレパートリー公演はどれも水準の高い演奏だったと思いますし、11月の「ヴォツェック」も結構な演奏でした。新国立劇場が日本のオペラの水準を決めるようになってほしいと思っているのですが、そういう傾向が出始めた、ということかもしれません。大変喜ばしいことです。

 さて、選択した優秀公演を簡単に総括します。

 錦織健プロデュースオペラの「愛の妙薬」ですが、これは森麻季の清新なアディーナの魅力です。また多数回公演を繰り返したプロダクションだけあって、演奏のまとまりが良かったことが印象に残っています。新国立劇場の「ワルキューレ」は「ヴォツェック」とどちらにしようかかなり迷ったのですが、こちらを選びました。東京リングの演出は素晴らしいものですし、舞台全体のまとまりもよかった。2010年の「ジークフリート」、「神々の黄昏」への継続への期待も込めています。

 「ポッペアの戴冠」は鈴木雅明率いるBCJの名演奏、レイチェル・ニコルズ、波多野睦美、森麻季、佐藤泰弘らの名唱が相俟って音楽的には大変素晴らしい成果でした。これで演出が良ければ当然ベスト3入りなのですが、演出がどうにも気に入らないので優秀賞止まりです。「修禅寺物語」は本年見た日本のオペラ作品の中でトータルで一番良かったもの。日本人歌手の力量がどんどん上がっていることを感じることができて嬉しかったです。

 新国「オテロ」は、新演出にも関わらず良く作り上げた舞台で結構。ルチオ・ガッロのイヤーゴの歌唱がとりわけ印象的でした。二期会の「蝶々夫人」は何と言っても山下牧子によるスズキの名唱が光ります。デラコート、読響の演奏も立派でした。グルックのオペラコミック「メッカの巡礼」は、作品としての魅力は今一つながら、森麻季、鈴木准、羽山晃生らの歌唱に魅力がありましたし、寺神戸亮指揮するところのレ・ポレアードの演奏も立派なものでした。

 ベスト3は、優秀作品にも増して、私のお気に入りです。

 第3位は、市民オペラから選びます。大田区民オペラ協議会の「シモン・ボッカネグラ」です。大田区民オペラ協議会はバス歌手の山口俊彦が主宰している団体ですが、山口のプロデューサー力が優れているということのようで、いい演奏をいたしました。森口真二指揮するところのプロムジカリナシャンテの演奏がよい。歌手陣も外題役の上江法明が素晴らしく、またアメーリア大隅智佳子、フィエスコの山口俊彦も良好で、このヴェルディの渋い傑作の魅力をよく表現していたと思います。

 第2位は藤原歌劇団の「愛の妙薬」です。マルコ・ガンディーニの読み替えの舞台は賛否両論がありましたが、私は支持する立場です。この舞台を大変楽しみました。特にAキャストの高橋薫子、エマヌエーレ・ダグアンノ、須藤慎吾、久保田真澄のコンビはとても素晴らしいものでした。アディーナだけであれば、前記の森麻季や、横浜シティオペラにおける高橋薫子の歌唱のほうが良かったかもしれませんが、チームとして見たとき、藤原歌劇団のAキャストが今年の白眉であったことは疑いありません。

 本年のベスト1は、新国立劇場の「ムツェンスク郡のマクベス夫人」に差し上げます。新国立劇場における現代オペラの第2弾として取り上げられたこの舞台は、ショスタコーヴィチというソビエトの社会体制に翻弄された作曲家の感性を良く示してくれたのではないかと思います。本来予定されていた若杉弘がミハイル・シンケヴィチ変更になり、今一つ期待できないのではないかと思ったのですが、それは全くの杞憂。作品の魅力を十全に伝えてくれました。

 ベスト歌手の候補は、テノールの村上敏明、バリトン/バスの佐藤泰弘、宮本益光、メゾソプラノの山下牧子、ソプラノの森麻季です。この中で、本年のベスト作品10作中3作で主要役を歌唱した森麻季が本年のベスト歌手にふさわしいと思います。

 2009年のオペラ公演におけるT的ベストは以上のとおりです。尚、例年の如く本選考に賞品はありません。選ばれた方・上演には、「おめでとうございます」を申し上げます。

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