どくたーTのオペラベスト3 2018
第1位
3月16日 新国立劇場公演
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」
日本語字幕付イタリア語上演 会場 新国立劇場オペラパレス
第2位 7月8日 新国立劇場公演
プッチーニ作曲「トスカ」
日本語字幕付イタリア語上演 会場 新国立劇場オペラパレス
第3位
2月17日 日本オペラ協会公演
團伊玖磨作曲「夕鶴」
日本語字幕付日本語上演 会場 新宿文化センター大ホール
ベスト歌手
砂川 涼子(ソプラノ)
優秀賞
ヨハン・シュトラウス作曲「こうもり」(新国立劇場公演、新国立劇場オペラパレス、1/21)
オッフェンバック作曲「ホフマン物語」(新国立劇場公演、新国立劇場オペラパレス、3/3)
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」(オペラ・ノヴェッラ公演、ハーモニーホール座間大ホール、9/2)
モーツァルト作曲「コジ・ファン・トゥッテ」(国立音楽大学大学院オペラ公演、国立音楽大学講堂、10/20)
ビゼー作曲「カルメン」(新国立劇場公演、新国立劇場オペラパレス、11/25)
ヴェルディ作曲「ファルスタッフ」(新国立劇場公演、新国立劇場オペラパレス、12/15)
ヨハン・シュトラウス作曲「こうもり」(舞台音楽研究会公演、テアトル・フォンテ、12/16夜)
(優秀賞は上演順)
特別賞
該当なし
選考理由
2018年に私が観劇したオペラ上演は39回41本、昨年並みです。例年のごとく、諸事情で行きたかったのに行かれなかった公演も多かったのですが、市民オペラ、大学オペラ、東京二期会、藤原歌劇団、新国立劇場の本公演までさまざまな公演に伺いました。
全体的な感想を申し上げれば、2018年の日本オペラ界、一言で申し上げれば低調でした。とりあえず優秀賞10本選びましたが、例年だったら、間違いなく選定しない公演がいくつも含まれています。新国立劇場は安定してよく、特に再演物は、安心してみていられました。しかし、ベスト10に6作も入るのは異常でしょう。自分としては、藤原歌劇団や東京二期会などの日本の団体の制作した作品をもっと取り上げたいのですが、今年はそれぞれ問題があって、ベスト10には取り上げられない、と思いました。特に東京二期会の公演は、音楽的には納得できる演奏もあったのですが、演出が私の保守的な趣味では理解できず、楽しめなかったということがあります。
オペラが「演出の時代に入った」と言われて久しいですけど、読み替え演出には無理があることが多い。その無理を演出家の力量で観客に納得させられれば良いのですが、現実にはそう行かないことが多いです。2018年は、二期会はコンヴィチュニー、ミキエレットという読み替え演出の大家二人を起用して「魔弾の射手」、「三部作」を上演しました。私自身はどちらも演出の意図は理解できたと思いますが、どちらも全く共感できませんでしたし、日生劇場の「コジ・ファン・トゥッテ」も現代的でカラフルな舞台で音楽的には良かったのですが、そもそも無理な設定の作品を更に演出で捻じ曲げてしまったため、結果的にもともと合っていないつじつまが更に広げてしまって、私は共感することができませんでした。
今回、舞台音楽研究会の「こうもり」をベスト10の一作として選びました。この公演は舞台は小さいですし、音楽的にも完璧ではなかったと思いますが、演出が素直で分かりやすく、誰でもすっきり理解できるように作ってありました。これって非常に大切なことだと思っています。オペラがもっと一般に広がっていくためには「素晴らしい音楽」と「分かりやすい演出」が 両輪になると思っています。本年以降、日本のオペラ制作団体はそこを踏まえた制作をより考えてほしいな、と思っています。
選択した優秀公演を簡単に総括します。
新国立劇場「こうもり」。スタッフのチームワークがよく、安定感抜群の公演でした。こういう公演ばかりだと逆に退屈するのでしょうが、このバランスの良さは特筆ものでしょう。
同じく新国立劇場「ホフマン物語」。こちらも再演の強みです。舞台として安定しています。歌手陣では三人の恋人役を歌った3ソプラノ、安井陽子、砂川涼子、横山恵子がそれぞれ持ち味を発揮して好演でした。
オペラ・ノヴェッラ公演「愛の妙薬」。市民オペラのあるべき姿を示した演奏と申し上げてよいと思います。アディーナ役が今一つだったのが残念ですが、それ以外は、演出もオーケストラも歌手も高水準で、それでいて手作り感もあって最高でした。
国立音大大学院オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」。大学院生の歌う主役で、まだまだ至らないところはいろいろありましたが、将来性を感じさせる若々しい歌声が魅力的でした。音楽全体の出来は、すぐ直後に聴いた日生劇場の「コジ」の方が断然上でしたが、阪哲朗の素敵な音楽づくりと若い歌手の将来性とを買っての選定です。
新国立劇場「カルメン」。主役のジンジャー・コスタ=ジャクソンの抜群の色気と、全体として安定感のある音楽づくりからの選定です。
新国立劇場「ファルスタッフ」。前回の2015年公演ほどよかったとは思いませんが、やはりまとまりがよく高水準の演奏だったことは間違いありません。
舞台音楽研究会「こうもり」。素直で分かりやすい演出と、そこそこよかった音楽づくりからの選定です。
演奏会形式で素晴らしい演奏を紹介する特別賞は、本年はなしといたします。
さて、どくたーTの選ぶ2018年のベスト3ですが、第三位は日本オペラ協会「夕鶴」です。佐藤美枝子の「つう」が初役とは思えない抜群の力量を見せ、中井亮一のイノセントな歌唱もとても素敵でした。園田隆一郎指揮する東京フィルの演奏も流石で、素晴らしい演奏だったと思います。
第二位は新国立劇場の「トスカ」。キャサリン・ネーグルスタットのトスカ、女優でした。音楽的にも立派ですが、その音楽が演技と連動して、それぞれの意味が反映しあっていることろが素晴らしい。スカルピアのスーグラは彼自身いやらしさたっぷりには歌っていなかったと思うのですが、トスカの演技が迫真だったため、ものすごく悪役のように聴こえてしまう。そこもネーグルスタットの力量なのでしょう。
第一位は新国立劇場「愛の妙薬」です。私はこれまで外人歌手が歌ったアディーナで感心したことは一度もないのですが、ルクレツィア・ドレイにまず感心。ネモリーノ役のピルグ、ドゥルカマーラ役のジローラモも抜群で、お互い音楽的には丁々発止やりあいながら、しかしながらチームワークをしっかりとって魅力的な舞台に仕上げ、「愛の妙薬」というオペラの良さを満喫させてくれる演奏でした。
ベスト歌手ですが、新国立劇場「こうもり」のアルフレードと「ファルスタッフ」フェントンで気を吐いた村上公太にしようかなとも思ったのですが、「ホフマン物語」アントニア、「カルメン」ミカエラ、その他も魔笛「パミーナ」など活躍著しかった砂川涼子にいたします。
2018年のオペラ公演におけるどくたーT的ベストは以上のとおりです。尚、例年の如く本選考に賞品はありません。選ばれた方・上演には、「おめでとうございます」を申し上げます。
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