村の少年団

さわりの紹介

 土屋組は金丸木戸両名の行動を監視していた。今日はそれを一善と決めていたのだった。沼田村へ喧嘩に出かけるようなら、力ずくでも止めるつもりでいたが、あとから考えて見ると、これが別の意味から実に大きな一善に相違なかった。山口副団長は土屋団長へ伝令を発した。
 「木戸君は山王神社の北三百メートルのところに一人で立っていたが、家に帰るといって、山の方角へ行った。なお尾行中」
 というのだった。土屋君はすでに金丸君について江藤副団長から、
 「金丸君は一人柿の木畑方面へ向った。なお尾行中」
 という伝令に接していた。
 「沼田村じゃない。見当が違う。しかし二人とも山に何の用があるのだろう?」
 と幹部一同は疑問を起して、なお警戒をつづけた。
 柿の木畑は例によって淋しかった。近くにお寺と新墓地と火葬場があるばかりだから察しられる。木戸君は屋敷の門のこわれた跡にたどりついた時、もうそれから奥深く進む勇気がなかった。立ち止まって耳をすました。
 「ピー、ヒョロヒョロ」
 と鳶が鳴いた。空を見上げたら一羽舞っていた。しかし次の瞬間に、
 「おおい!」
 と呼ぶような声が聞えた。
 「おや!」
 と総身がゾクッとした刹那、
 「助けてくれい!」
 と呼ぶ声が聞えた。木戸君は覚えず五六歩屋敷内へ踏み込んだ。
 「おおい!助けてえ!」
 と又呼ぶ。木戸君は大人の丈より高い草を分けて進みかけたが、急に怖気がついた。ガサガサ音がする。
 「ああ!」
 と思ったら、もう一たまりもなく往来まで駈けもどった。丁度その時、山口君が部下四名をつれて通りかかった。尾行して来たのだった。
 「山口君、山口君」
 と木戸君は走り寄った。
 「どうした?木戸君」
 と山口君は、唯ならぬ血相におどろいた。
 「金丸君が入っている」
 「え?」
 「助けてくれって呼んでいる」
 「え?」
 「みんな来てくれ給え」
 と木戸君は一同を門のところまで引っぱって行った。
 「何も聞えないじゃないか?」
 「黙って」
 「・・・・・・・・・」
 「聞えないね。呼んで見ようか?」
 「馬鹿をいい給え。亡者が招いているんだと大変だ」
 と山口君は亡者にこりている。
 「金丸君だよ」
 「来たのかい?金丸君が」
 「うむ。来たんだよ。それで僕が探しに来たんだよ」
 と木戸君は説明して納得させた。
 「おおい」
 とその時声が聞えた。
 「おおい」
 と木戸君は仲間が来たので勇気が出た。
 「おおい」
 と声が聞えた。
 「おおい。金丸君」
 「おおい」
 「行こう」
 と木戸君は先に立った。
 「・・・・・・・・」
 「健児は恐れず」
 「おおい。助けてえ!」
 と又声が呼んだ。これにうながされて一同、
 「おおい。行くぞう!」
 と答えて草を分けはじめた。
 「おおい」
 「おおい」
 「助けてくれい!」
 「どこだあ?」
 「ここだあ!」
 「おおい」
 「ここだあ!」
 と声が地面から出てくる。
 「おおい」
 と六人の同級生はもう怖いことを忘れた。
 「ここだあ!井戸の中だあ!」
 とそれは明かに金丸君の声だった。

作品を楽しむ

 「村の少年団」は、昭和5年4月号から昭和7年3月号まで2年間にわたって、講談社の「少年倶楽部」に連載された作品です。前年12月まで、少年倶楽部に「苦心の学友」を連載して、連載中より非常に評判が高かった訳ですが、3箇月後の新連載は、前の都会を舞台にした」作品から、一転してどこかの山村を舞台にした作品。「苦心の学友」とは一寸趣がことなりますが、子供のやんちゃさ、元気さが良く示された傑作です。

 ○○平野の東端にあり、後に日の出山を控える日出村の人々は村自慢で、子供達も隣村の沼田村といちいち張り合っています。ある日、村長の息子で副級長の江藤保男君と、水車場の息子で級長の土屋与四郎君が近郷の中心地・原町まで出かけたとき、少年団の演習を見、自分達も少年団を結成しようと考えます。そして、土屋君が団長、江藤君が副団長の「日出村少年健児団」を結成します。でも、クラスの仲間は、それぞれに思惑があり、皆幹部になりたく仕方がありません。幹部にしてくれなければ入団しないという者が続出して、結局、地主の息子・玉木君、大村君、池上君を副団長、医者の息子・栗原君他2名を顧問とすることにしました。そこでも不満の主がいます。成績は一番ビリですが、一番図体が大きく、ランニングは全校一で、相撲も強い金丸君です。結局、彼の腕力に敬意を表して、団長1名、副団長5名、顧問3名、唯健児数十名の少年団が発足したのでした。

 少年団の目標は一日一善です。とはいえ、遊びたい盛の男の子、畑のなかで戦争ごっこを行って、村一番の長老・弥吉さんを怒らせたり、野良猫を助けたはいいけれども、飼ってくれる家がなく、弥吉さんの家に放り込んで、弥吉さんの頭に猫を乗せてしまうと言うような失敗もあります。一方で、泥棒の隠した盗品の柳行李を発見して、大いに面目をほどこします。

 少年団の中で、最大の問題児は金丸君です。根は単純でいい子なのですが、腕力が強く乱暴なので、皆から反発もでます。しかし、沼田村の子供らと喧嘩をすれば、頼もしさも一番です。少年団を世のため人の為に尽くし、沼田村とも話し合いで仲良くしようとする団長土屋君や他の副団長たちは、金丸君のコントロールに手を焼きます。

 一方で、幹部になれなかった子供たちには、幹部になりたいと言う気持ちがあります。幹部に登用するための肝試しをやって、二人を幹部に登用しますが、その間、沼田村の子供達といさかいが起きます。肝試しを受けていた木戸君は、沼田村に連れていかれ、すんでの所で金丸君に助けられます。この事件をきっかけにした両村の子供達の対立で、穏健派の土屋少年団のやり方を納得できない武闘派・金丸君が、団を割ります。金丸君は幹部になれない不満を持った子供達を引抜きますが、乱暴な金丸君のやり方に、ついてくる子供達は少ないです。金丸君に恩義を感じている木戸君は、金丸君と行動を共にしますが、金丸君のやり方を諌めます。

 その結果、金丸君は孤立し、一人で、やくざの金太の居所を探そうと、幽霊の出るといわれる柿の木畑に出かけ、古井戸に落ちてしまいます。これを助けたことで、両少年団は再度一緒になり、沼田村の少年団とも仲直りをします。少年団に悪戯をされて怒っていた弥吉さんにも、活動を理解してもらいます。でも、蝦蟇が淵に沈めてあるといわれる千両箱を引き上げようとして、潜った金丸君が足を石の間に挟まれ、半死半生の目に会い、親達は、少年団活動を禁じます。良かれと思ってやったことが失敗して、大人には悪戯と思われ、それにめげず、新たなる活動で名誉を挽回する。それの繰り返しです。

 「苦心の学友」は、上下関係の中での友達関係を描きました。一方で「村の少年団」では全く対等の子供達の社会が描かれます。色々な失敗やいさかいから、子供達はそれなりに計算しながらも、仲良くするすべを学んで行きます。「村の少年団」が書かれて70年経った訳ですが、現在の子供達は、この当時の子供達のように大勢で集団をつくって遊ぶことは少なくなったと思います。それだけに社会性の獲得と言う意味では、何かと難しくなっています。そのような時代から見ると、向日的でナイーブな子供達の集団は、何とも羨ましいものです。 

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