オペラに行って参りました-2022年(その2)

目次

ドン・ジョヴァンニには心がない 2022年2月23日 新国立劇場オペラ研修所修了公演「ドン・ジョヴァンニ」を聴く
日本のオペラ界の明日を担って欲しい人たち 2022年3月3日 「明日を担う音楽家による特別演奏会」を聴く
ウクライナを思わずにはいられない 2022年3月5日 第24回藤沢市民オペラ「ナブッコ」を聴く
「師匠に対するオマージュ」なのかな? 2022年3月9日 ブルー・アイランド版オペラ「あまんじゃくとうりこひめ」、「うりこひめの夜」を聴く
遜色ない人もいるけれども 2022年3月12日 日本オペラ振興会団会員企画「SPRING CONCERT2022」を聴く
冷静な熱情 2022年3月16日 新国立劇場「椿姫」を聴く
なぜ上演されてこなかったのだろう? 2022年3月17日 ベルカント・オペラ・フェスティバル・インジャパン2021「ジュリエッタとロメオ」を聴く
バランスの良いガラコンサート 2022年3月20日 立川市民オペラ2022「スペシャルガラコンサート」を聴く
2022年3月21日 小松美紀ソプラノリサイタル「古風な月」を聴く
2022年3月26日 プリマドンナ高橋薫子 魅惑のバリトン立花敏弘 名曲の森 Vol.2を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2022年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 どくたーTのオペラベスト3 2022年
2021年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 どくたーTのオペラベスト3 2021年
2020年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2020年
2019年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2019年
2018年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2018年
2017年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2017年
2016年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2016年
2015年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2015年
2014年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2014年
2013年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2013年
2012年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2012年
2011年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2011年
2010年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2010年
2009年 その1 その2 その3 その4   どくたーTのオペラベスト3 2009年
2008年 その1 その2 その3 その4   どくたーTのオペラベスト3 2008年
2007年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2007年
2006年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2006年
2005年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2005年
2004年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2004年
2003年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2003年
2002年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2002年
2001年 その1 その2       どくたーTのオペラベスト3 2001年
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年

鑑賞日:2022年2月23日
入場料:指定席 1F 11列 62番 4400円

主催:文化庁/新国立劇場

新国立劇場オペラ研修所修了公演

全2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「ドン・ジョヴァンニ」(Don Giovanni)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ

会場 新国立劇場中劇場

スタッフ

指 揮 天沼 裕子  
管弦楽 新国立アカデミーアンサンブル
チェンバロ 大藤 玲子
合 唱 新国立劇場オペラ研修所OBを中心とするメンバーによる合唱団
演出・演技指導 粟國 淳
装 置 横田 あつみ
衣裳コーディネーター 増田 恵美
照 明 稲葉 直人
音 響 松田 哲
映 像 荒井 雄貴
舞台監督 穂積 千寿

出演

ドン・ジョヴァンニ 程 音聴
ドンナ・アンナ 内山 歌寿美
ドン・オッターヴィオ 鳥尾 匠海
ドンア・エルヴィラ 杉山 沙織
レポレッロ 湯浅 貴斗
マゼット 長冨 将士
ゼルリーナ 原田 奈於
騎士長 松中 哲平

感 想

ドン・ジョヴァンニには心がない‐新国立劇場オペラ研修所終了公演「ドン・ジョヴァンニ」を聴く

 第二幕のフィナーレで、ドンナ・エルヴィーラの嘆きを聴いたレポレッロは「Se non si muove al suo dolore, Di sasso ha il core, o cor non ha.」と歌います。この分の日本語の訳は、「あの女の苦悩にもし動揺しないのなら、心が石でできてるか、それとも心を持ってないかだ」となるのですが、レポレッロに言われるまでもなく、今回のドン・ジョヴァンニは「心を持っていない」ドン・ジョヴァンニだったように思いました。ドン・ジョヴァンニと言えば神を信じず、良心を持たず、性的欲望を隠すことなく、反省せず、悩まず、恐れることない存在です。そんな男に2000人もの女性が誘惑され、毒牙にかかってきたのは、彼が性的魅力にあふれるからだと考えられてきました。確かにドン・ジョヴァンニ歌いとして有名な人はセクシーな歌を歌う印象がある。

 それに対して、今回の程音聴のドン・ジョヴァンニは「冷たい」印象がより前面にでていました。もちろん楽譜通りに歌っているわけで、そうなるようにモーツァルトが仕組んでいるのですが、程の歌は常時冷静で熱くなることなく、丁寧で正確に歌う。そしてどんな時もあまり表情が変わらない。その結果、その中心に何もない虚無的なドン・ジョヴァンニを見せました。 それが粟國淳の演出の意図だとすれば納得できる演出だし、それをやり切った程音聴も素晴らしいと思います。程に関して個人的に惜しいなと思ったのは、「シャンパンの歌」のブレスがちょっと浅かったことと、第二幕の前半がそれ以外の部分と比べるとちょっとテンションが低かったことぐらいで、最初から最後までとても素晴らしいドン・ジョヴァンニだったと思います。

 程だけではありません。今回のドン・ジョヴァンニはこのプロダクション全てが素晴らしかったと思います。その成功の原因はおそらく指揮の天沼裕子にあります。天沼裕子は日本の女流指揮者のさきがけの一人として有名な方ではありますが、縁がなく、これまで聴いたことがありませんでした。今回初めて聴かせていただいて、上手い指揮者だと思いました。ストーリーの進展にいい感じにオーケストラを合わせていく。このタイミングの取り方が実に見事。オーケストラと歌手の呼吸の一致する感じが絶妙なのです。天沼は現在新国立劇場オペラ研修所の音楽主任講師でありますが、連日の稽古にかなり付き合って、一緒に音楽を組み立ててきように思いました。その練り上げたものを今回見せたということなのではないでしょうか?

 若い人が演奏する「ドン・ジョヴァンニ」をこれまで何度も聴いてきました。新国立オペラ研修所でも過去2回聴いていますし、国立音楽大学の大学院オペラでも5-6回は聴いているはずです。しかし、考えてみると「これはよかった」と思えるような演奏はこれまで聴いたことがないのです。同じモーツァルトのオペラでも「フィガロの結婚」や「コジ・ファン・トゥッテ」であれば若い人たちがいい演奏をすることも少なくないと思うのですが、「ドン・ジョヴァンニ」ではこれまでなかった。完成度を高めることが難しいのでしょうね。今回初めて「いいね」と言える演奏に出会えたのは、才能のある出演者に恵まれたことがあるのはもちろんなのですが、コレペティトゥアの能力の高い指揮者に指導を受けて研修した成果がいい具合に纏まり、その指導者が指揮したことによる安心感やチームワークが相乗効果になったようにも思います。

 相乗効果について特に感じたのは、第一幕フィナーレにおいて、ドン・オッターヴィオ、ドンナ・アンナ、ドンナ・エルヴィラによって歌われる仮面の三重唱。ぴったり合っていて、極めて美しいハーモニーとなりました。

 個別の歌手については皆基本能力が高いな、というのが印象です。特にレポレッロを歌った湯浅貴斗。最初から最後まで一番安定した歌唱と演技で舞台を引っ張りました。若い方だけあって、ブッフォらしい柔軟さを示すまでには至っていませんでしたが、低音がしっかり響くのが好ましい。存在感という点ではご主人様であるドン・ジョヴァンニの後ろを歩く感じで、比較的消していた印象で、そのつつましいバランス感がレポレッロらしいと思いました。この辺も研修所の演技指導の賜物なのでしょうね。

 男声低音はもう一人マゼットがいます。マゼットの長冨将士は唯一の一年次メンバー。先輩と比較すると演技・歌唱とも力量的にはこれからという感じです。歌唱技術的には、マゼットを歌うのであれば、もう少し低音がしっかり響いてほしいところです。騎士長は16期終了の松永哲平。2019年の研修所修了公演でも騎士長を歌っていましたが、しっかりした歌で後輩をサポートしていました。

 ドン・オッターヴィオを歌ったのが鳥尾匠海。レジェーロテノールで、ドン・オッターヴィオの雰囲気を上手く二曲のアリアはもっと腰を据えた歌い方をした方が安定したのではないかと思いますが、軽い声でしっとりと歌われていて素敵でした。ただ、全体的な体力配分は上手く行っていなかったようで、フィナーレで高音が出なくなってしまったのはちょっと残念でした。それでもしっかりまとめたからよしとしなければいけません。

 女声陣は三人とも立派でしたが、三人に共通するのはピアノで歌うところの表現が今一つだったのかな、というところです。例えば語尾の処理。言葉は前半にアクセントがあって後半が強くならないのが原則ですが、だからと言って語尾が聴こえなくていいという話ではありません。語尾をもっとはっきりさせるような歌い方で歌われた方がそいい感じに聴こえたのかな、またそう歌った方が歌の安定性が上がったのかな、という気がしました。とはいえ、ドンナ・アンナを歌った内山歌寿美、ドンナ・エルヴィーラを歌った杉山沙織ともいいパフォーマンスでした。

 杉山エルヴィーラは登場のアリアである「お願い教えてください」がまだ完全に調子に乗り切っていなかった感じで更にいい感じにまとめられるとは思いましたが、その後のやり取りはどれもしっかりしていて、ドンナ・エルヴィーラの哀れさを十分に示していたのではないかと思います。第8曲のアリア「この嘘つきから逃げて!」はしっかりテンションが上がっていましたし、第15曲目の三重唱におけるエルヴィーラの感じはしっかり哀れさを誘うものがありました。そして、21-bの大アリアは劇的な表現で圧倒しました。

 内山アンナは第一幕はちょっと大人しい感じがしました。特に登場シーンから最初のアリアを歌うまでの歌唱。アリアのためにエネルギーをとっていたのでしょうが、もう少し存在感を示した方が良かったのではないかというところ。第一幕のアリア「ドン・オッターヴィオ、私死にそう」はまだ前半のテンションを引きずっていた感じでエンジンがかかるまで時間がかかった印象。それ以降はどんどんエンジンが回転し始めた感じで、第二幕の大アリア「私が残酷ですって、それは違います」はとても素晴らしい歌唱になりました。

 原田ゼルリーナは、リリコ・レジェーロの声を駆使して繊細に表現をしました。ゼルリーナというある意味したたかな女を表現するだけの細かいテクニックはさすがにまだ十分ではないように聴きました。そういうところに気を遣った歌唱をしていたように見えたのですが、細かいところを丁寧に歌おうとすると声量が足りなくなっていく感じです。繊細な歌唱は大事ですが、もう少ししっかり歌った方が農家の娘の力強さのようなものが見えたと思います。

 個々人いろいろ課題はあるのですが、しかしながら音楽の流れに乗って、自分の役割を果たすという観点では皆しっかり役目を果たし、特に目立つ人も特に隠れている人もおらず、アンサンブルのバランスが特に素敵に纏まりました。演奏チームとしてとてもレベルが高く、鍛えられているな、と思いました。

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鑑賞日:2022年3月3日
入場料:A席 1F 29列 14番 1800円

主催:文化庁/公益財団法人東京二期会

文化庁委託事業「令和3年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」 
新進芸術家海外研修制度の成果

明日を担う音楽家による特別演奏会

会場 東京オペラシティコンサートホール

出演

指 揮 角田 鋼亮  
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
ソプラノ 鈴木 玲奈
ソプラノ 竹下 裕美
ソプラノ 宮地 江奈
メゾソプラノ 金澤 桃子
メゾソプラノ 鈴木 望
テノール 山本 耕平
バリトン 深瀬 廉
バリトン 村松 恒矢

プログラム

作曲 作詞/作品名 曲名 演奏
ロッシーニ チェネレントラ 序曲 東京フィルハーモニー交響楽団
ロッシーニ チェネレントラ アンジェリーナのアリア「悲しみと涙に生まれ」 金澤 桃子
モーツァルト ドン・ジョヴァンニ ドン・オッターヴィオのアリア「恋人を慰めて」 山本 耕平
トマ ハムレット オフェリのアリア「私を遊びの仲間に入れてください」 鈴木 玲奈
ロルツィング ロシア皇帝と船大工 船大工ペーター(皇帝)のアリア「裏切られるとは!」 深瀬 廉
休憩
ヴェルディ 椿姫 ヴィオレッタのアリア「ああ!そは彼の人か~花から花へ」 宮地 江奈
ドニゼッティ ラ・ファヴォリータ レオノーラのアリア「私のフェルナンド」 鈴木 望
ヴェルディ 運命の力 レオノーラのアリア「神よ平和を与えたまえ」 竹下 裕美
ヴェルディ ドン・カルロ ロドリーゴのアリア「終わりの日が来た」 村松 恒矢

感 想

日本のオペラ界の明日を担って欲しい人たち‐「明日を担う音楽家による特別演奏会」を聴く

 今の若いオペラ歌手のトップクラスは本当に実力があるな、ということは、これまでもずっと申し上げて来たし、まさにその通りだと思っているのですが、今回はその中でも真打たちの披露公演といった趣。基本的には皆水準以上の素晴らしい歌唱だったと思います。どこに出しても恥ずかしくないレベル。でもその中でも聴き比べればおのずと順位が付いてしまう。もちろんそれはテクニカルな上下もあるけれども、選曲の妙、私自身の好き嫌いの問題も絡むので、全く私の個人的意見以上の何者でもないのですが、今回はその順位を敢えて明確に示しながら感想を述べたいと思います。

 まず第8位ですが、村松恒矢だと思います。先月は日本オペラ協会の「ミスター・シンデレラ」に出演されるなど、活躍著しいバリトンですが、その忙しさのせいか、今一つ喉が疲れていた様子。歌われたのは、「ドン・カルロ」の盟友ロドリーゴの死のアリアですが、まだ元気なはずのシェーナの部分が疲れている感じで、銃で撃たれて瀕死の部分では結構盛り上がるという、ちょっと反対なのではありませんか? という演奏。歌のバランスがとれていればもっと素晴らしかったのにな、というところです。

 第7位は金澤桃子。テクニックは素晴らしいと思いました。特に後半のアジリダの処理などは立派でした。しかし、前半が重いのです。アンジェリーナは確かにコントラルトの持ち役ですから重くていいんですけど、それが脂で重いのではなくて米で重いという印象。艶やかさが今一つ足りない。また、最後の音が上手く決まらなかったのも残念でした。

 第6位。宮地江奈でしょう。シェーナからカヴァティーナにかけては繊細に、カバレッタは華やかにという絵図で歌われました。その意図がよく分かるコントロールされた歌でよかったのですが、逆に繊細の表情にこだわるあまり、歌が縮こまっていた印象です。「ああ、そは彼のひとか」の部分は、ひとつ間違うと大味な歌になってしまうのでしょうが、もっと伸びやかに歌われても良かったように思いました。

 第5位。鈴木望です。初めて聴く方だと思いますが、とても素敵なメゾソプラノ。ベルカント・メゾを代表するアリアを丁寧なベルカント唱法で歌われたと思います。色々な意味でダイナミクスを広く取った歌でそのメリハリが素晴らしい。しっとりとした幅のある低音と張りのある高音を共にしっかり決め、その幅の広さで圧倒しました。

 第4位は深瀬廉にします。こちらも初めて聴くバリトン。出身地の山形を拠点に活動されているようで、これまで知らなかったのかもしれませんが素晴らしいバリトンでした。歌われたのが、タイトルしか知らなかった「ロシア皇帝と船大工」のツァーリのアリア。初めて聴く曲ですが、深瀬は声が艶やかで、中間部のリリックな表情と後半のダイナミックな表情の対比も立派でした。高音も綺麗に伸びるところも素晴らしい。

 そして第3位ですが、山本耕平です。山本は本来の持ち声からするとドン・オッターヴィオという感じではないと思いますが、でも素晴らしい歌でした。「どう歌うか」という歌う構想が見事で、それを正確なテクニックで表現に落とし込んでいく。一か所だけ、音が落ち過ぎたところがありましたが、後は完璧と申しあげていいのではないでしょうか。とりわけ素晴らしいのがロングトーン。どうすればあんなに長く同じような響きでコントロールできるのでしょう。呼吸法もよほど研究されたと思います。Bravissimo。

 第2位。鈴木玲奈。素晴らしいコロラトゥーラ・ソプラノ。見事の一言に尽きます。彼女も設計が素晴らしく、それをしっかり表現に落とし込んできたと思います。技術的な素晴らしさは申し分ありません。ただ、惜しむらくは狂乱の場の表情としてはもう少し踏み込んだ濃い表情にしても良かったのかなという印象。計算しつくされた見事な歌でしたが、憑依した印象はあまりなかった。そこがちょっと残念です。

 第1位は竹下裕美。「神に平和を与えたまえ」という印象を強く与える立派な歌でした。今ロシアがウクライナを侵略している時だからこそ余計に胸に響いたところはあります。もちろん歌も立派です。黒々とした墨汁で丁寧に描いたような印象。声が艶やかで伸びがあり、細かいところまでゆるがせにしない歌は本当に立派でした。声量が十分で抑えるところと出すところのダイナミクス、祈りの心情表現どこをとってもすばらしい。このレベルの「神に平和を与えたまえ」は滅多に聴けないと思いました。Bravissima.

 自分の好みをたっぷり入れたランキングですが、1位から5位とした5人は、本当に全員1位でもおかしくない甲乙つけがたい素晴らしさ。海外留学でしっかり勉強してきたことを、今回の演奏会のために更に磨きをかけてきたことが分かる歌で本当に感心しました。6から8位とした3人は、そこまで素晴らしかったとは申しあげられませんが、水準以上の見事な歌。非常にハイレベルな演奏会で素晴らしいと思いました。若い彼らが更に舞台の本番で活躍する姿を見ていきたいと思いました。Bravissimi!!

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鑑賞日:2022年3月5日
入場料:B席 1F 24列 10番 4400円

主催:公益財団法人藤沢市未来創造財団
共催:藤沢市・藤沢市教育委員会
制作:藤沢市民オペラ製作委員会

第24回藤沢市民オペラ公演

全4幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「ナブッコ」(Nabucodonosor)
台本:テミストークレ・ソレーラ
楽譜:シカゴ大学による批判校訂版

会場 藤沢市民会館大ホール

スタッフ

指 揮 園田 隆一郎  
管弦楽 藤沢市民交響楽団(コンサートマスター:平澤 仁)
合 唱 藤沢市合唱連盟
合唱指揮 浅野 深雪
演 出 岩田 達宗
装 置 二村 周作
衣 裳 半田 悦子
照 明 大島 祐夫
音 響 山中 洋一
舞台監督 菅原 多敢弘

出演

ナブッコ 今井 俊輔
イズマエーレ 工藤 和真
ザッカーリア 伊藤 貴之
アビガイッレ 小林 厚子
フェネーナ 山下 裕賀
ベルの祭司長 杉尾 真吾
アブダッロ 新海 康仁
アンナ イ・スンジュ

感 想

ウクライナを思わずにはいられない‐第24回藤沢市民オペラ公演「ナブッコ」を聴く

 「西の堺、東の藤沢」と並び称される市民オペラの創始者、藤沢市民オペラですが、その伝統の力を遺憾なく発揮した素晴らしい舞台だったと思います。

 個人的な思い出で言えば、私が転勤で上京して最初に見たオペラが1988年ミラノスカラ座来日公演の「ナブッコ」でした。レナート・ブルゾンのナブッコ、ゲーナ・デミトローヴァのアヴィガイッレ、リッカルド・ムーティ指揮というこの時の舞台は素晴らしい舞台装置と本物のドラマティコであったデミトローヴァの声など本場の音楽に圧倒された記憶があります。その後新国立劇場や東京二期会など色々な公演を楽しんできましたが、正直申し上げてこのスカラ座の来日公演に匹敵するような公演はこれまでなかったのですが、今回の藤沢市民オペラはスカラ座の公演にかなり近づけていたのではないかと思いました。

 その功績はまずは指揮の園田隆一郎にあると思います。今回ピットに入った藤沢市民交響楽団は市民オーケストラとしてもそれほど実力がある団ではないというのが本当のところでしょう。テクニカルなミスは色々とあったと思います。しかし園田はそんなオーケストラを丁寧に見ながら、音楽を立体的に組み立てていきます。序曲を聴いた感じではちょっと遅れているパートもあり、アンサンブルとしてきっちりまとまるのか、とも思ったのですが、現実にオペラに入るとしっかりオーケストラが盛り上げてくれて、溌溂として劇的な音を構築してくれました。この音楽があってのオペラだったと思います。

 もう一つ素晴らしかったのが合唱。藤沢市民オペラはこれまで何回か伺っていますが、合唱のレベルはこれまらた大したことがなかったというのが本当のところ。寄せ集めの合唱団員はいい加減な歌を歌う人もあり、アンサンブルとしてはあまりよいものではありませんでした。しかし、今回はコロナ禍で前回公演から期間があいたということが関係していると思うのですが、十分な練習時間が取れて鍛えられたということがあるのだろうと思います。この作品は「行け、思いよ、金色の翼に乗って」が有名ですが、音楽的にはコンチェルタートで合唱がソロと絡むところが重要です。この合唱はかっちり構築しないとソロが入ったとたんバラバラになってしまうという憂き目にあうわけですが、しっかり揃っていて、ソロが入っても崩れる様子がなく一気呵成に盛り上がる感じが素晴らしかったです。これは合唱指揮の浅野深雪の指導の賜物と申しあげるべきでしょう。また男声に関して言えば助演の力も大きい。大槻聡之介、工藤翔陽など6人の方が助演で入られていたのですが、彼らの声が男声合唱の支えになったことは間違いありません。

 ちなみに合唱の中で一番の聴きものである「行け、思いよ、金色の翼に乗って」は悪いものではないのですが、ppとffの差が小さかったかな、という印象。この曲はもっとダイナミクスをとって歌った方が盛り上がります。

 ソリスト陣もみんな素晴らしかった。ことにザッカーリアを歌った伊藤貴之。低音がしっとり響くのが魅力的。最初の「エジプトの海辺で神はモーゼを助けた」の朗々とした響きが立派で、続くカバレッタの盛り上がりも見事。第二幕の祈りの音楽は一転してしっとりとした祈りの音楽をそのように歌ってみせる。コンチェルタートにおいて楔のように入る声も魅力的で素晴らしい。今回の公演で一番魅力的だったと思います。

 山下裕賀のフェネーナもいい。若手メゾソプラノの第一人者として大活躍中の山下ですが、今回の歌も立派でした。落ち着いた声で捉えられた姫君の悲しみの表情も、イズマエーレとの甘い恋のささやきも、ユダヤ教に改宗すると宣言する切羽詰まった力強さもどれも納得のいくもので、魅力的。いい歌を聴かせてもらいました。

 工藤和真のイズマエーレも立派。工藤は昨年夏、リゴレットのマントヴァ公を歌うのを聴きましたが、彼の重い声はマントヴァ公には似合っていない感じがしました。しかし、イズマエーレには丁度良い。力強さと高音の伸びが役柄に似合います。第一幕におけるフェネーナとアビガイッレとの三重唱でそのパワフルな声に魅了されました。

 小林厚子のアビガイッレも流石の歌唱です。力強い伸びと艶ややかさがかね備わった高音は見事としか申しあげようがありません。前半は低音もしっかり出ていて、アビガイッレの強さを見事に表現していました。アビガイッレの一番の聴かせどころのアリア「かつて私もよろこびに心開いた~私が黄金の王座に着く」は美しさと迫力が華ね備わったものでした。ただ、小林はこの曲でエネルギーを使い切ったのか、後半は前半ほどのパワーが出ていなかった印象です。それでも高音の力強さは健在でしたが艶やかさは前半ほどではなかったですし、低音が聴こえなくなっていました。

 今井俊輔のナブッコも良かったと思います。唯これまで述べた4人と比較すると、今一つ影が薄かったかな、という印象です。そう思うのは、今一つメリハリが利いていなかったからでしょう。歌唱は立派だったと思うのですが、正気な時と狂っているときの差があまりはっきりしなかった印象です。もちろんこれは今井の責任というよりは演出の岩田達宗の責任です。正気な強い王の時、王に軽薄な行動をとらせる意味が分かりません。もちろん絶対権力者ですから何をしてもかまわないのですが、カリスマ性の維持を考えたらあんまり変なことはできないのではないかと思いました。舞台装置や衣裳もいい雰囲気だったと思うのですが、演出もオーソドックスな方が良かったかなと思いました。

 その他の脇役ではベルの祭司長の杉尾真吾が良かったと思います。

 以上細かいところで気になるところはあったのですが、全体的には上質な公演だったと思います。久しぶりのナブッコは楽しめてよかったのですが、見ていて凄く感じたのは、今この時点で戦闘が続いているロシアのウクライナ侵攻です。ストーリー感じながら見ていくとロシア人に先祖代々の土地を蹂躙されたウクライナ人のことを思わずにはいられませんでした。演出の岩田達宗が今回のロシアの侵略行為を踏まえてこの演出を考えたとは思いませんが、戦争の本質的な愚かさみたいなものは示されていて、そこが今のウクライナと重なるものがあったのだろうと思います。

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鑑賞日:2022年3月9日
入場料:自由席 6500円

ブルー・アイランド版オペラ公演

全1幕、原語(日本語)上演
林光作曲「あまんじゃくとうりこひめ」(1958)
台本:若林一郎
青島広志作曲「うりこひめの夜」(2021)(初演)
原作:諸星大二郎「瓜子姫とアマンジャク」
台本:青島広志

会場:あうるすぽっと

スタッフ

指揮(あまんじゃくとうりこひめ) 小林 滉三  
ピアノ(あまんじゃくとうりこひめ) 茂木 真理子
指揮(うりこひめの夜) 山上 純司
ピアノ(うりこひめの夜) 諌山 万貴/徳富 香恵/松﨑 颯太
打楽器 山口多嘉子
演出(あまんじゃくとうりこひめでは構成も) 青島 広志
振付/演出助手 鷲田 実土里
照 明 川原 敬貴
音 響 寺部 和貴
舞台監督 星 雅裕

出演

あまんじゃくとうりこひめ

うりこひめ 柏原 奈穂
あまんじゃく 男澤 友泰
じっさ 西 義一
ばっさ 赤井 悦子
とのさん 水野 賢司
けらい 山田 幸隆

うりこひめの夜

うりこひめ 横山 美奈
あまんじゃく 実川 裕紀
トビ丸 吉田 伸昭
山姥 三橋 千鶴
山父 関口 直仁
清丸 高橋 淳
村長 宝福 英樹
老女中く 久利生 悦子
スダマⅠ 小嶋 陽太
スダマⅡ 林 潤一郎
スダマⅢ 清水 一成
賽の神 松島 勇矢

両演目共通(台詞役)

未来のうりこひめ 木曽 真奈美
バスガイド 北條 聖子
ツアー客 木村 雄太
ツアー客 近藤 はるか
GHQ 山根 亮太
GHQ 松島 勇矢

感 想

「師匠に対するオマージュ」なのかな?‐ブルー・アイランド版オペラ「あまんじゃくとうりこひめ」、「うりこひめの夜」を聴く

 NHKのテレビオペラとして作曲された「あまんじゃくとうりこひめ」は、林光の最初のオペラ作品として1958年にテレビ放送により初演されました。これまで200回以上舞台で再演されているようですが、私自身は初見です。本来の「瓜子姫」伝説は天邪鬼が悪者で、最後は成敗されるストーリーなわけですが、林の作品は子供向けのテレビオペラという性質上、あまのじゃくはいたずら者ではあるけれども悪者ではなく、むしろ「いい妖怪」として描かれているのが特徴です。

 音楽的には團伊玖磨「夕鶴」の成功に始まった民話オペラの系統にあり、音楽的にも素朴で音響もまた日本のわらべ歌的な要素が含まれていて聴きやすいものでした。

  今回の演出は、終戦後の焼け野原の池袋に舞台を移し、うりこ姫はそこに住むお嬢様、あまんじゃくは戦災孤児、じっさとばっさはうりこひめを96歳の時に産んだという老夫婦、とのさんとけらいはうりこひめを誘拐してGHQに売り払おうとした悪役として描かれました。そして、うりこひめは機織りが得意な娘というのが本来の設定ですが、今回はピアノを弾くのが上手な娘という設定に変わり、青島広志の説明によれば、ピアノのことを「はた」と呼んでいるとのことでした。

 その演出の趣旨は青島が前説で説明してくれたからそういうことなのだろうと思ったのですが、焼け野原の光景もなく、舞台上に時空をめぐるバスツアーの一行がいたりして、説明がなかったら何をしているのか全く分からなかったでしょう。その混沌こそが青島ワールドの真骨頂と言ってしまえばその通りなのでしょうが、舞台作品はそんな説明がなくても理解できるように演出するのが本来の姿でしょう。その意味では全くいい演出ではありませんでした。

 作品は平易で、特に技巧的なところがあるわけでもなく、柏原奈穂のうりこひめ、男澤友泰のあまんじゃく、赤井悦子のばっさ、水野賢司のとのさん、山田幸隆のけらいと、それぞれの役割を果たしていたと思います。一方、西義一のじっさはミスが目立ちました。声はさすがに昔取った杵柄で80歳近い年齢にしてはそれなりに立派なものがありましたが、記憶力に難が出ている様子で、入りのタイミングなどはうまくいっておらず、プロンプター役の青島より強いサポートが入っておりました。

 後半の青島広志の新作「うりこひめの夜」は師匠・林光と同じ「うりこひめ伝説」を題材としていても内容も音楽もずっと今日的です。和声にしてもぶつかる音も結構使用されていますし、転調も頻繁な感じです。演奏的にも決してやさしくはないと思います。師匠を越えようとする意図があったのが、単に師匠に対するオマージュなのかはよくわかりませんが、オペラとしては青島の新作の方が面白いと思いました。

 ストーリーは諸星大二郎の原作に基づいているもののようで(わたしはこの漫画家を知りませんし、原作を読んでもいませんが、「ブラックメルヘン」という言われ方をしているようです。)瓜子姫はもともと巫女で託宣を与えていたのですが、その能力がなくなり、天邪鬼の力を借りて託宣を続けますが、都の貴族清丸が失脚し、佐渡に流されたことを知ると、霊体となって会いに行こうとするというものです。 アリアと重唱が交錯し、「じゃんがら節」も使われていますが、日本的な印象はあまりないと思いました。

 演奏は、横山美奈のうりこひめが張りのある高音で丁寧な歌唱を披露し素晴らしい。横山は青島広志との共演の多い方ですが、青島の意図をよく理解した歌唱をしていると思いました。 あまんじゃく役の実川裕紀も立派。メゾソプラノで華やかさはありませんが、丁寧でしっかりした歌唱は見事なものでした。踊りもしっかりメリハリがついていて見がいがありました。

 重唱では男声三人によるスダマが素晴らしい。力感がありながらきれいにハモるところが良かったです。男声では高橋淳の清丸が立派。青島広志は高橋が参加してくれることになったため、清丸にテノールの技巧を示す歌を用意したそうですが、その期待に応えた見事な歌唱。その他のわき役陣も自分の役目を果たしていました。

 以上作品的にも悪くないし、演奏も素晴らしくいい初演だったと思うのですが、非常に違和感も残りました。一つは青島の口上が多すぎ長いこと。彼の軽妙な口調がお好きな方はよいのでしょうし、それが彼の一つの芸であることは認めますが、やっぱりオペラは作品と演奏で評価されるのが本当だと思います。もし何か言いたいことがあるのであれば創作ノートのような形でパンフレットに記載するべきだと思います。なお、パンフレットには曲目解説がなくかなり不親切なもの。その分前説で、ということなのかもしれませんが、前説も余計な話が多く、肝心なオペラの話はほとんどありません。私には彼の口上はうるさいし邪魔なだけでした。

「あまんじゃくとうりこひめ」/「うりこひめの夜」TOPに戻る
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鑑賞日:2022年3月12日
入場料:自由席 3800円

主催:公益財団法人日本オペラ振興会

日本オペラ振興会団会員企画シリーズ

SPRING CONCERT 2022

会場 昭和音楽大学 ユリホール

出演

ソプラノ 岡田 美優  
ソプラノ 木村 愛子
ソプラノ 髙橋 ゆかり
ソプラノ 中原 沙織
ソプラノ 中森 美紀
メゾソプラノ 舛田 慶子
テノール 勝又 康介
テノール 濱田 翔
テノール 堀越 俊成
バリトン 飯塚 学
バリトン 髙橋 宏典
ピアノ 奥谷 恭代
ピアノ 松本 康子
司会 泉 良平/長島 由佳

プログラム

作曲 作品名 曲名 歌唱  
ロッシーニ セビリャの理髪師 伯爵、フィガロ、ロジーナの三重唱「ああ、何と意外な展開でしょう」 舛田 慶子/勝又 康介/飯塚 学 松本 康子
ドニゼッティ ドン・パスクワーレ ノリーナのアリア「あの騎士の眼差しに」 岡田 美優 奥谷 恭代
ビゼー カルメン ホセのアリア「お前の投げたこの花が」 濱田 翔 奥谷 恭代
ベッリーニ カプレーティとモンテッキ ロメオとジュリエッタの二重唱「そう、逃げるのだ」 髙橋 ゆかり/舛田 慶子 松本 康子
バーンスタイン キャンディード クネコンダのアリア「きらびやかに着飾って」 木村 愛子 松本 康子
ヴェルディ シモン・ボッカネグラ ガブリエーレのアリア「僕の心は激しい嫉妬の炎で燃え上がっている」 堀越 俊成 奥谷 恭代
プッチーニ トスカ トスカのアリア「歌に生き、愛に生き」 中原 沙織 奥谷 恭代
ドニゼッティ ポリウト セヴェーロのアリア「麗しきあなたの面影」 飯塚 学 松本 康子
ドニゼッティ ランメルモールのルチア ルチアとエンリーコの二重唱「こちらへおいで、ルチア~ぞっとするような青白さが」 中森 美紀/高橋 宏典 奥谷 恭代
休憩
モーツァルト コジ・ファン・トゥッテ ドラベッラのアリア「恋はくせもの」 舛田 慶子 松本 康子
ベッリーニ 清教徒 エルヴィーラのアリア「あなたの優しい声が」 髙橋 ゆかり 松本 康子
ドニゼッティ 愛の妙薬 アディーナとネモリーノとの二重唱「アディーナ、一言聴いてほしい」 岡田 美優/濱田 翔 奥谷 恭代
ドニゼッティ ランメルモールのルチア ルチアのアリア「あたりは沈黙に閉ざされ」 中森 美紀 奥谷 恭代
ドニゼッティ ランメルモールのルチア エンリーコのアリア「冷酷で、不吉ないら立ちを」 高橋 宏典 奥谷 恭代
ヴェルディ リゴレット マントヴァ公のアリア「頬に涙が」 勝又 康介 松本 康子
ヴェルディ リゴレット リゴレットとジルダとの二重唱「日曜ごとに教会で」 木村 愛子/飯塚 学 松本 康子
プッチーニ トスカ トスカとカヴァラドッシの二重唱「マリオ!、マリオ!、マリオ!」 中原 沙織/堀越 俊成 奥谷 恭代
アンコール
ヨハン・シュトラウス二世 こうもり オルロフスキー公から歌い始める「葡萄酒の流れるままに」 全員 奥谷 恭代/松本 康子
レハール メリー・ウィドウ 「女・女・女」の七重唱 全員 奥谷 恭代/松本 康子
ヴェルディ 椿姫 ヴィオレッタとアルフレードとの二重唱「乾杯の歌」 全員 奥谷 恭代/松本 康子

感 想

遜色のない人もいるけれども‐日本オペラ振興会団会員企画「SPRING CONCERT 2022」を聴く

 今月3日に今の若手オペラ歌手トップクラス8人の歌を聴いたばかりです。それから二週間、今回は日本オペラ振興会(藤原歌劇団・日本オペラ協会)に所属する比較的若い方たちの歌唱を聴きました。3日と比較すると、3日の歌手たちと遜色のないような技術や才能を示した人もいましたが、全体としてトータルで見た場合、音楽の質感も技術も3日の人たちよりは劣るというのが本当のところ。また、全体的にはソロの方がよく、重唱になると実力を発揮できていないきらいが見られました。ソロは自分でこつこつと積み上げたものを披露したと思いますが、重唱は練習が足りないということなのでしょう。そのあたりも含めて更なる精進を期待したいところです。

 個別の感想です。

 「セビリアの理髪師」の三重唱。しょっぱなということで緊張していたのでしょうが、三人とも全体として声が重く、ロッシーニに期待される溌溂とした感じがありませんでした。舛田慶子は低音が全然飛んでこず、軽快な低音が魅力のロジーナを歌い切れていなかった印象。勝又康介は軽い声も出せるようですが、本当の高音になると苦し気で興ざめなところがあります。フィガロは悪くないのですが、もう少し軽い方が更にいいはずです。

 「あの騎士の眼差しが」。良かったです。響きが上向いて、パンと抜けていくところが素晴らしい。岡田美優、いい若手を知ることができました。続く濱田翔もBravo。清潔な高音がみずみずしく響きます。最後のアクートで僅かに失敗したのが残念ですが、それさえなければ完璧と申し上げてもよい歌でした。

 続く「カプレーティとモンテッキ」の二重唱。前半は良かったです。後半のソプラノとメゾソプラノの声が逆転するあたりから上手く息が合っていない感じで失速した印象です。続く木村愛子のクネゴンダ。歌を自在に操って、ちょっとジャジーなバーンスタインの雰囲気を上手に表現していました。Bravaでした。

 「シモン・ボッカネグラ」の嫉妬のアリア。ヴェルディらしい骨太のテノールのアリアですが、堀越俊成はその雰囲気をよく出した表現でした。カヴァティーナとカバレッタの差をもっと見せたほうが更によかったとは思いますが、いい歌でした。トスカの「歌に生き、愛に生き」。中原沙織はしっかりしたソプラノ・リリコ・スピントで高音も低音も力感はあるのですが、低音の処理は音が若干低いのか、今一つでした。あと何ヘルツか高いところで低音を処理できれば、もっと質感が上がった気がします。

 「ポリウト」のアリアは初めて聴く曲。割と低めのバリトンの響きがいい感じで進みます。そして、前半の最後はルチアとエンリーコの二重唱。これはよかったです。ソプラノの軽いけどしっかりした声とバリトンの端整な声が見事に調和して、前半の最後を飾るにふさわしい素敵な二重唱になりました。

 後半の最初は舛田慶子のドラベッラのアリア。前半の重唱がどちらもあまり上手く行っていなかったのに対して、こちらは流石に落ち着いたしっかりした歌唱。ソロの方が歌いやすいのでしょうね。続く髙橋ゆかりのエルヴィーラのアリア。勉強中の歌、という感じです。髙橋の声はソプラノ・リリコ・レジェーロなのでしょうが、ベルカントオペラには微妙に似合っていない印象でした。続く、愛の妙薬の二重唱。岡田美優も濱田翔はソロもよかったですが、この二重唱も清新で雰囲気もあって素敵なものでした。Braviです。

 中森美紀のルチアの登場のアリア。1か所小さなミスがあって完璧ではありませんでしたが、華やかさと力感のバランスがよく取れていて立派。聴き応えがありました。続く髙橋宏典のエンリーコのアリア。こちらもミスはあったのですが、歌い方が端正で全体としてはいい感じにまとまりました。Bravoでしょう。

 勝又康介のマントヴァ公のアリア。中音部はいい感じなのですが、高音が開いてしまい、アクートが決まらない。そこが残念です。リゴレットとジルダの二重唱は今一つ気が合っていないのか、お互いのソロの力が相殺された感じになりました。音色が今一つ嵌っていない感じでした。最後のトスカの第一幕の二重唱。こちらはよかったです。中原沙織のトスカの周りが見えない真剣な感じも雰囲気が出ていましたし、堀越俊成のカヴァラドッシもトスカに振り回されながらも一本芯のある感じを表現するのに十分な歌唱で立派。最後をいい具合に締めてくれました。

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鑑賞日:2022年3月16日
入場料:D席 4F L5列 4番 4950円

主催:新国立劇場

新国立劇場公演

全3幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「椿姫」(La Traviata)
原作:アレキサンドル・デュマ・フィス
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ

会場 新国立劇場オペラパレス

スタッフ

指 揮 アンドリー・ユルケヴィチ  
管弦楽 東京交響楽団
合唱指揮 三澤 洋史
合 唱 新国立劇場合唱団
演出・衣裳 ヴァンサン・ブサール
美 術 ヴァンサン・ルメール
衣裳コーディネーター 増田 恵美
照 明 グイド・レヴィ
ムーブメント・ディレクター ヘルゲ・レトーニャ
再演演出 澤田 康子
舞台監督 斉藤 美穂

出演

ヴィオレッタ 中村 恵理
アルフレード マッテオ・デソーレ
ジェルモン ゲジム・ミシュケタ
フローラ 加賀 ひとみ
ガストン子爵 金山 京介
ドゥフォール男爵 成田 博之
ドビニー侯爵 与那城 敬
医師グランヴィル 久保田 真澄
アンニーナ 森山 京子
ジュゼッペ 中川 誠宏
使者 千葉 裕一
フローラの召使い 上野 裕之

感 想

冷静な熱情‐新国立劇場公演「椿姫」を聴く

 色々なところでミスが目立ち、決して精度に優れた演奏ではなかったのですが、ヴィオレッタとアルフレードの頑張りが聴き応えのある演奏に結びついたのかな、と思います。

 まずミスのことを最初に列挙すると、冒頭のアンサンブルでどなたかの出が上手く行かなかったのか、ちょっと変でした。第二幕のアンニーナの登場する場面、音も違っているようでしたし、言葉も半分ぐらい聞き取れませんでした。第二幕第二場のフローラの屋敷。冒頭の女声合唱が上手く言っていませんでしたし、男声合唱も前と後ろとで明らかにずれがありました。またこの場面のフローラも出が遅れたのか歌唱が上手く行っていませんでした。そんなわけで、最近では珍しいほど小さいミスが頻出したのですが、これはおそらく舞台が悪いのです。ヴァンサン・ブサールの演出になってから、毎回小さいミスに気づかされます。もちろん、この舞台も4回目の再演ですから、もうそろそろ音楽的にはビシッと決めて欲しいのですが、今回はコロナ禍の関係で歌手たちの立ち位置が変わったところが影響しているのか、前回(2019年)よりもミスが更に増えた印象です。

 その中で気を吐いたのがヴィオレッタとアルフレード、残念だったのがジェルモン、ということだろうと思います。

 アルフレード役のマッテオ・デソーレは明るいテノーレリリコ。軽い声が上に抜け、軽快に響くところがいい感じです。アルフレードは今の彼の声に一番合っている役のようで、終始見事な歌唱でした。「乾杯の歌」や「燃える心に」はもちろんよかったのですが、そこに至るアプローチも立派。例えば、乾杯の歌に至る導入の部分は、「乾杯の歌」の素晴らしさを予感させるものでしたし、第二幕前半のジェルモンの説得に対して反抗する様子や、第二幕第二場のアンサンブルにおけるいら立ちの表現などは素晴らしいものがありました。おそらく全体で一番レベルの高い歌唱を披露したのがマッテオ・デソーレだろうと思います。

 一方の中村恵理も頑張りました。中村はもうソプラノ・リリコ・スピントであり、昨年歌った「蝶々夫人」位の曲が今の彼女に一番合っている気がします。ヴィオレッタは彼女の声にすればもう軽い役であり、決して歌いやすい役ではなかったように思います。特に第一幕の軽い華やかな声を期待されるところは彼女にとって鬼門だったのではないでしょうか。そこを中村は声のポジションを高く置くことで解決しようとしました。第一幕の中村の声は軽いのですが、それをしっかり固めようとしているのか、かなり硬質な声でした。上行跳躍などは、高さは十分に間に合っているのですが、ぶつかっていく感じで、本当はここが柔らかく繋がるといいのだけど、という歌。「ああ、そは彼の人か~花から花へ」も硬質な歌で、かっちりしていてよいのですが余韻はあまり感じられませんでした。もちろん、「花から花へ」の慣用のアクートは行わず。楽譜通りに歌われました。

 第一幕で作り込んだ中村ヴィオレッタですが、第二幕からは彼女の本領を見せてくれました。音域的に丁度良いみたいで、情感のこもった歌唱が素晴らしかったと思います。一番の聴きどころであるジェルモンとの二重唱は後述しますが、第3幕のアリア「さようなら、過ぎ去った日」は、諦めきれない諦念がしっかり籠った歌で本当に見事、アルフレードとの「パリを離れて」も素晴らしかったと思います。アルフレードとの重唱は第二幕でも何か所かありますけど、どこもヴィオレッタの悲しみが伝わってくるような歌で、アルフレードの世間知らずな雰囲気も相俟って素晴らしいと思いました。

 ゲジム・ミシュケタのジェルモンは、曲は立派です。一番の聴きどころである「プロヴァンスの海と陸」は要所要所リタルダンドを掛けながら切々と歌う表情が素晴らしい。重唱部分もメロディックな部分はいい感じで歌ってくれます。でもレシタティーヴォ的なところは全然ダメでした。声が籠っていて、発音が不明確。何を言っているのか聞き取れません。更に、ジェルモンで聴かせるべき父親的愛情も実感として分からない様子で、一本調子です。結果として第二幕の一番の聴かせどころであるヴィオレッタとの二重唱は、ヴィオレッタの見事な感情表現に対して、ジェルモンの歌唱の表情が上手くまとまらず、いいものではなかったと思います。

 指揮者のユルケヴィッチはウクライナ人。今起こっているロシアのウクライナ侵攻のことは十分心を痛めているとは思いますが、演奏にその感じを含ませるようなことはありませんでした。しっかり緩急の付けた演奏でしたが、速い部分がやや駆け足になる傾向があり、そこが、彼の心情の表れなのかもしれません。東京交響楽団の演奏はいつもながら立派なもの。音楽の下支えに貢献していました。

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鑑賞日:2022年3月17日
入場料:A席 2F 3列 33番 4800円

主催:文化庁/公益財団法人日本オペラ振興会
協力:ヴァッレ・ディトリア(マルティーナ・フランカ)音楽祭/昭和音楽大学
 

ベルカントオペラフェスティバルインジャパン2021公演

全2幕、字幕付原語(イタリア語)上演/セミステージ形式/日本初演
ヴァッカイ作曲「ジュリエッタとロメオ」(Giulietta e Romeo)
台本:フェリーチェ・ロマーニ
楽譜:リコルディ版/1835年改訂版世界初演

会場 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

スタッフ

指 揮 鈴木 恵里奈  
管弦楽 テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
合唱指揮 須藤 桂司
合 唱 藤原歌劇団合唱部
演 出 チェチーリア・リゴーリオ
美 術 アレッシア・コロッソ
衣裳監修 ジュゼッペ・パレッラ
照明コーディネーター 辻井 太郎
舞台監督 八木 清市/水谷 翔子

出演

ジュリエッタ 伊藤 晴
ロメオ 松浦 麗
カペッリオ 澤﨑 一了
アデーリア 齊藤 純子
テバルド 岡 昭宏
ロレンツォ 小野寺 光

感 想

なぜ上演されてこなかったのだろう?‐ベルカント・オペラ・フェスティバル・インジャパン2021「ジュリエッタとロメオ」を聴く

 ヴァッカイという作曲家は名前すら耳にしたことがなかったと思います。水谷彰良さんの「イタリア・オペラ史」には、ベッリーニの同時代の作曲家の一人として9行ほど取り上げられていますし、ベッリーニの「カプレーティとモンテッキ」の解説には関連して取り上げられることも多いので、とりあえずは名前だけは知っていたはずなのですが、現実には完全に忘れていました。第4回の「ベルカントオペラフェスティバル」で取り上げられることを知ってようやく認識したところです。オペラ作曲家としては結構不遇な方だったようで、唯一の代表作とも言われる「ジュリエッタとロメオ」だって、完全な形で上演されるようになったのは最近のことのようです。今回演奏されたのはヴァッカイ自身による1835年の改訂版だそうですが、改訂版世界初演ということは、改訂はされたけど発表はされずお蔵入りだったということで、その不遇ぶりは可哀想ですね。しかし聴いてみると、全然悪い曲じゃあない。ロッシーニの影響は感じられますが、「カプレーティとモンテッキ」の発表後の改訂ということもあってそれなりに意識した改訂をしているのか、ロマンティックな味わいもあって楽しめる音楽です。

 ベッリーニの「カプレーティとモンテッキ」と同じ題材をとりあげ、台本作家も同じロマーニ。というか、ロマーニは「カプレーティとモンテッキ」のために、「ジュリエッタとロメオ」の台本を下敷きにしたけれどもほぼ全部を書き直して簡潔にしたようです。「ジュリエッタとロメオ」ではそれなりに重要な役割を果たしているアデーリアが「カプ・モン」からは消えています。また、「カプ・モン」ではレシタティーヴォ部分がかなりカットされているそうで、その分ロマンティックな味わいが増えている分はあるのでしょう。1830年代はそういう流れだったのでしょうが、現代の耳で聴くと、「ジュリエッタとロメオ」の技巧性が強い音楽もそんな卑下されるようなものではありません。特に「カプ・モン」ではバス歌手に与えられる「カペッリオ」がテノール役になり、技巧的なアリアを与えられているのは大変面白く聴きました。

 当初案内されていた来日予定のマルチェッロ・ブファリーニが鈴木恵里奈に、ジュリエッタ役がレオノール・ボニッジャから伊藤晴に、ロメオ役がラッファエッラ・ルピナッチから松浦麗に、カペッリオ役がミケーレ・アンジェリーニから澤﨑一了に変更になり、変更が決定したのが1月の末、アナウンスされたのが3月4日ということもあって、とても十分な舞台稽古までは手が回らず、完全な舞台ではなくセミステージ形式になりましたが、要所要所で演技が入り、視覚的にはある程度理解可能なもの。ただ、全員が黒い衣装(後半はジュリエッタだけ白いドレス)で、照明も暗く、もう少し明るめでも良かったのかな、という印象です。

 音楽的には、皆さんしっかり稽古を積まれた様子で、立派な演奏だったと思います。特に代役で入られた3人が立派でした。

 まず導入曲で、カペッリオ、テバルド、ロレンツォの3人がそれぞれ色合いの違う歌を歌い、合唱が絡むところが魅力的。第2曲では松浦麗がロメオの登場のアリアを歌います。この「ロメオがあなたのご子息を殺したとしても」は、「カプ・モン」でも歌われますが、曲の抒情性は「カプモン」に劣ると思いますが、技巧的な難しさはこちらが上のように思いました。そこを松浦ロメオがしっかり決めて見事。その後、アデリアのカヴァティーナを齊藤純子がしっかり見せ、最初の山場であるロメオとジュリエッタの愛の二重唱になります。この甘美な甘美な二重唱は伊藤ジュリエッタがロメオを引っ張っていく感じ。ソプラノとメゾソプラノのそれぞれ柔らかい声が混じりあって官能美が生まれます。その後のカペッリオ、ジュリエッタ、テバルドの三重唱は、澤﨑カペッリオの見事な技巧による存在感が引っ張っていく感じがいいです。そして長大なアンサンブル・フィナーレ。盛り上がって休憩に入ります。

 後半は前半よりもじっくり描かれる感じです。「カプ・モン」ではテバルドが死ぬのは二幕の中盤ですが、「ジュリエッタとロメオ」では一幕のうちに死にます。第二幕ではジュリエッタの仮死への決意と現実のすれ違いに至る道のりを詳細に描く感じです。まずジュリエッタとロレンツォの二重唱。ジュリエッタの痛々しい決意の表現が素晴らしいと思います。そして、ジュリエッタの死を知ったカペッリオの長大なアリアが素晴らしい。軽い高音としっかりした低音まで澤﨑一了の見事な歌唱が光ります。ここが二幕の白眉でしょう。そしてロメオの悲しみの表現とジュリエッタが目覚めたときの二人の悲しみの二重唱が見事でした。

 結局今回はヒロインジュリエッタのアリアはなかったのですが、伊藤晴の軽いけどしっとりした声が良かったです。

 演技が少ない分、どなたもしっかりした歌唱で、音楽的に充実していたと思います。鈴木恵里奈の指揮も経験を積まれてきているだけあって、曲の雰囲気の示し方が上手になった印象。オーケストラはそれなりに乱れてもいましたが大きく崩れた印象はありません。日本初演でしたが、今まで紹介されなかった理由が分からないほどいい曲だったと思います。

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鑑賞日:2022年3月20日
入場料:A席 19列10番 3000円

主催:立川市民オペラの会/公益財団法人立川市地域文化振興財団

立川市民オペラ2022 スペシャルガラコンサート

立川市民オペラ2022 スペシャルガラコンサート

会場 たましんRISURUホール大ホール

出演

ソプラノ 砂川 涼子  
ソプラノ 山口 安紀子
メゾソプラノ 増田 弥生
テノール 澤﨑 一了
テノール 角田 和弘
バリトン 照屋 博史
バリトン 牧野 正人
合 唱 立川市民オペラ合唱団
合唱指揮 古谷 誠一
ピアノ 越前 皓也
ピアノ 清水 新
ピアノ 冨田 優

プログラム

作曲 作品名 曲名 歌唱
マスカーニ カヴァレリア・ルスティカーナ 村人たちの合唱「オレンジの花は香り」 立川市民オペラ合唱団
ヴェルディ ドン・カルロ ドン・カルロとロドリーゴの二重唱「我らの胸に友情を」 澤﨑 一了/照屋 博史
ロッシーニ チェネレントラ アンジェリーナのアリア「苦しみと涙の下に生まれ」 増田 弥生
ヴェルディ アイーダ アイーダのアリア「勝ちて帰れ」 山口 安希子
チレア アルルの女 フェデリーコのアリア「ありふれた話」 角田 和弘
レオンカヴァッロ 道化師 ネッダのアリア「鳥の歌」 砂川 涼子
チレア アドリアーナ・ルクヴルール ミショネのアリア「モノローグが始まる」 牧野 正人
休憩
マスカーニ カヴァレリア・ルスティカーナ 村人たちの合唱「主は蘇られた」 立川市民オペラ合唱団
マスカーニ カヴァレリア・ルスティカーナ トゥリッドゥのアリア「母さん、あの酒は強いね」 澤﨑 一了
ロッシーニ セビリアの理髪師 フィガロのアリア「わたしは町の何でも屋」 照屋 博史
サン・サーンス サムソンとデリラ デリラのアリア「私の心はあなたの声に花開く」 増田 弥生
プッチーニ トスカ トスカとカヴァラドッシの二重唱「マリオ!、マリオ!、マリオ!」 山口 安希子/角田 和弘
ヴェルディ アイーダ アイーダとアモナズロの二重唱「ああ、お父様」 砂川 涼子/牧野 正人
アンコール
ヴェルディ ナブッコ ヘブライ人の合唱「行けわが想いよ、金色の翼に乗って」 全員

感 想

バランスの良いガラコンサート‐立川市民オペラ2022「スペシャルガラコンサート」を聴く

 立川市民オペラは2007年の「道化師」/「カヴァレリア・ルスティカーナ」から皆勤賞だと思います。市民オペラは色々な形がありますけど、市民合唱団が中心となってオペラ公演を企画しているのは、立川ぐらいではないのかしら。常設の立川市民オペラ合唱団がしっかり活動しているのが継続できている大きな理由だと思います。ちなみに、立川には「立川オペラ愛好会」という団体もあって、そちらも毎年ガラコンサートをやっていますが、二つの団体がお互い近いところで活動しているのもいいところだと思います。

 活発な活動を続ける立川市民オペラですが、このコロナ禍で活動はかなり制限されました。当初は2020年3月に予定されていた「トゥーランドット」が中止を余儀なくされ、一年後の昨年は全幕公演ではなくハイライト公演という形で何とかしのぎました。本年はオペラの企画を立てること自体が無理で、これまで立川市民オペラに出演してきた歌手たちを再度呼んで、スペシャルガラコンサート、という形で再開することになったようです。なお、立川市民オペラでは合唱に練習時からコーラス・サポートと呼ばれる若手歌手が入り、合唱団の技術向上に貢献しています。その中から澤﨑一了や吉田連のように藤原歌劇団や東京二期会の本公演に出演するような方も沢山出ているのですが、そういった第一級のソリストは流石にコーラスサポートではないのですが、今回は数年前までコーラスサポートで入っていた方が再登場して舞台を盛り上げました。

 演奏はこういったガラコンサートの性格上、それぞれの得意な曲を持ち寄ったところがあり総じていいものだったのですが、特筆すべきはまず牧野正人でしょう。牧野は足が悪いようで車椅子で登場し、椅子に座っての歌唱でしたが、正しい発声を身に着けている方の強さというべきか、全然衰えの感じさせない歌唱で素晴らしかったです。ミショネのアリアといい、アイーダとアモナズロの二重唱といい、流石牧野というべき歌唱。後半の二重唱のアイーダは砂川涼子だったわけですが、砂川は前半で歌われた「鳥の歌」は、もちろん感情のしっかり籠ったいいものではありましたが、一方でかつての砂川だったら考えられないような荒っぽい表現もありました。そういった荒々しい表現が意図的に行われているのであれば、私はあまり好きではありませんがもちろんそれは結構です。一方、二重唱は牧野の良さと砂川の本来の魅力がきっちり重なったような二重唱で、迫力と緊迫感に満ちているのですが荒っぽい感じにはならず、とても素晴らしいと思いました。

 山口安紀子も良かったです。山口はアイーダやトスカを最も得意とする方ですが、アイーダの何とも言えない心情表現が素晴らしく、後半のトスカもトスカの可愛らしい我儘ぶりを上手に表現していました。カヴァラドッシ役の角田和弘が一歩引いて、あんまり頑張らずに歌ったのも、トスカの我儘に手を焼くカヴァラドッシという感じがよく出ていて、いい二重唱になりました。そう言えば、一週間前、日本オペラ振興会団会員企画の「スプリング・コンサート」で中原沙織と堀越俊成がこの二重唱を歌い、角田はスタッフとしてこの演奏を聴いていたのですが、「若い者には負けられない」と思われたのかもしれません。中原・堀越組も悪くなかったのですが、山口・角田組の方が質感が一段上、というのは感じました。

 増田弥生はアンジェリーナのアリアで素晴らしい技巧を披露し、デリラのアリアも良かったですが、メゾソプラノとしてはもう一段ドスの効いた声があるといいのかな、と思いました。澤﨑一了は前半の「友情の二重唱」はもちろん立派なものですが、昨日まで歌われていた「ジュリエッタトロメオ」のカペッリオの疲れが若干残っているのか、いつもほどではない印象。一方、トゥリッドゥのアリアは、自分もかつて歌っていた立川オペラ合唱団の頑張りがいい影響を与えたのか、声も表情も納得のいく出来栄えだったと思います。照屋博史も頑張りました。なお、照屋の声が一番響いたのは、アンコールのヘブライ人の合唱。現在立川オペラ合唱団の合唱指導も行っている照屋が合唱団を導くような歌唱でした。

 合唱はコーラスサポートもあってよかったのですが、ハレルヤが特に聴きもの。メゾソプラノソロをコーラスサポートで入った実川裕紀が見事に歌い上げました。 

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鑑賞日:2022年3月21日
入場料:自由席 2000円

主催:小松美紀

小松美紀ソプラノリサイタル「古風な月」

会場 八ヶ岳やまびこホール

出演

ソプラノ 小松 美紀  
ピアノ 渡辺 啓介

プログラム

作曲 作詩/作品名 曲名
草川 信 百田 宗治 どこかで春が
岡野 貞一 高野 辰之 朧月夜
中山 晋平 野口 雨情 雨降りお月さん
橋本 國彦 西條 八十 お菓子と娘
高田 三郎 深尾 須磨子 市の花屋
ドビュッシー   星の夜
アーン   恍惚の時
マスネ マノン マノンのアリア「さようなら、私たちの小さなテーブル」
グノー ファウスト マルガリーテのアリア「宝石の歌」
休憩
木下牧子 歌曲集「古風な月」 湖上
月夜の家
月光
月の光に与えて
お伽噺
スカルラッティ   すみれ
ヘンデル アリオダンテ 恍惚の時
ベッリーニ 夢遊病の女 マノンのアリア「さようなら、私たちの小さなテーブル」
アンコール
     

小松美紀ソプラノリサイタル「古風な月」
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鑑賞日:2022年3月26日
入場料:自由席 5500円

主催:松本記念音楽迎賓館

プリマドンナ高橋薫子 魅惑のバリトン立花敏弘 名曲の森 Vol.2

会場 松本記念音楽迎賓館

出演

ソプラノ 髙橋 薫子  
バリトン 立花 敏弘
ピアノ 村沢 裕子

プログラム

作曲 作詩/作品名 曲名 歌唱
滝 廉太郎 武島 羽衣  髙橋 薫子/立花 敏弘
中田 喜直 加藤 周一 さくら横ちょう 立花 敏弘
別宮 貞雄 加藤 周一 さくら横ちょう 髙橋 薫子
滝 廉太郎 土井 晩翠 荒城の月 立花 敏弘
服部 良一 深尾 須磨子 蘇州夜曲 髙橋 薫子
カッチーニ   アマリッリ 立花 敏弘
スカルラッティ   すみれ 髙橋 薫子
モーツァルト   すみれ 立花 敏弘
トスティ   ローザ 髙橋 薫子
休憩
モーツァルト ドン・ジョヴァンニ ドン・ジョヴァンニとゼルリーナの二重唱「お手をどうぞ」 髙橋 薫子/立花 敏弘
モーツァルト ドン・ジョヴァンニ ドン・ジョヴァンニのセレナード「窓辺においでよ」 立花 敏弘
モーツァルト ドン・ジョヴァンニ ゼルリーナのアリア「薬屋の歌」 髙橋 薫子
マーラー さすらう若者の歌 恋人の婚礼の日 立花 敏弘
ドビュッシー   星の夜 髙橋 薫子
ワーグナー タンホイザー 「夕星の歌」 立花 敏弘
レハール メリー・ウィドウ ハンナのアリア「ヴィリアの歌」 髙橋 薫子
 アンコール
レハール メリー・ウィドウ ハンナとダニロの二重唱「唇は閉ざしても」 髙橋 薫子/立花 敏弘

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